少女の手紙
おにいちゃんへ きょうはたくさんあそびました。 たのしかったです。 おにいちゃんとはやくあそびたいです。 きょうは、しゅじゅつをします。 おかあさんが、とってもいたいのよっていってた。 でも、それがおわったらまたあそべるよって。 だから、ちさ、がんばります。 おにいちゃんもさっかーがんばってね。 ちさより 引き出しの中に入った少しクシャッと丸まった手紙。 それを見て、俊は唇を噛んだ。 4歳年下の妹、千里(ちさと)。 『ちさね、ちさね……』 そう言いながらまとわりついてくる千里を鬱陶しく思う時もあった。そして、あの日がやってくる。 ***** 千里は朝から元気だった。 一週間ほど前から病院ではなく家で過ごしていたので、もう病気は治ったのだと勝手に思っていたけれど、違った。それを知るのはその日の午後であった。 きっかけは、些細なことだった。 千里が俊が大切にしていたサッカーの大会で貰った盾を落として、壊してしまったのだった。 「ふざけんなよ……お前なんか、いなくなればいいんだ!」 千里はしょんぼりと俯いて、「ごめんなさい……」と謝った。でも、許しはしなかった。 だから、母に、「俊、今日、病院に来てちょうだい」と言われたときも「サッカーがあるから」と断った。 「そう……」 それから数時間後、母から電話がかかってきて、『千里が死んだの……』と告げられた。泣いているのだろう。声が震えていた。電話の向こうから嗚咽が聞こえる。 「そんなわけ……だって、元気だったじゃん」 『あれはね……千里に残された最後の一週間だったのよ。もうお医者さんからは助からないって言われて。だから、最後は家で過ごさせてあげましょうってことになってね。発作も起こしてたんだけど……俊の前では、元気に振る舞ってたのよ。意識ももうろうとしていてね』 「そんなの……」 どうして……と掠れた声がやけに響いた。 『千里、サッカーの盾壊しちゃったんだって? 気にしてたわよ』 「え? ああ、あの盾……」 お母さんの声が少し寂しげに笑う。 『千里の最後の言葉はね……“お兄ちゃん、盾壊してごめんなさい”だったわ』 「……っ」 それと同時に涙が溢れた。 ***** 「……っ、千里……」 そんなつまらない理由で自分は千里の死に目にいこうとしなかったのだ。 あれから2年。生きていたら、小学3年生。 部屋には使われることのない赤いランドセルが置いてある。 「オレ……」 サッカーで上手くいかず、スタメンからも外された俊の耳に、聞こえるはずのないあの声が聞こえた。 『おにいちゃん、がんばれ』 目の前に千里がいるかのように感じた。 一瞬手が温かくなる。 「千里……戻ってきてくれたんだな」 俊は外へ駆け出した。 「オレ……ぜってぇサッカーで有名になってやるからなっ!」 『ありがとう……おにいちゃん』 ……薄らと透けたあの時のままの姿の千里が呟いて、すぅっと姿を消した。 *あとがき* 小説初投稿のマロンです。 ご感想、宜しくお願いします♪ またどこかで出会えますように☆彡