柚の木
私、柏木柚(かしわぎゆず)は、車の中で不安に駈られていた。 父の仕事の都合で、慣れ親しんだ鳥取から離れて東京に行く最中だ。 「友達、出来るかなぁ」 母が微笑む。 「柚は優しいから、大丈夫よ」 曖昧に微笑み返した。 「ごめんな、柚。中学校、折角地元の名門校に受かったのに」 私と似て、気弱な父が謝る。 「お父さんのせいじゃないわ。気にしないで」 〇〇〇 それからちょうど一年後。 私は東京の友人に囲まれ、楽しく過ごしていた。あの不安は、杞憂に終わったのだ。 今は磯貝悠人(いそがいはると)君と言う彼氏迄出来て、幸せな毎日を送っている。 と、思っていた。 春頃から体調が徐々に悪くなり、秋に病院で検査を受けると、滅多にかからない難病だと言われた。百万人に一人位の確率だ、と。治療は出来るが、最低でも10年はかかるらしい。 私は悠人に別れを告げる事にした。 ディズニーランドに行くのを最後のデートにしようと思い、入念に計画を立て、楽しく過ごした。その帰り道。 私は道路で立ち止まり、彼に病の事を打ち明けようとした。 「あのさ、悠人」 「なんだよ」 あのね、私難病だから、別れて下さい… その言葉が、彼に届く事は無かった。 悠人の後ろから車が突っ込んで来るのが見えた私は、咄嗟に悠人を突き飛ばして庇ってしまったのだ。 「ゆずー!!」 最愛の人が呼んだ自身の名を耳に焼き付け、私は目を閉じた。 ○○○ あれから12年。 私は死んだが、いわゆる幽霊となってこの世に留まった。悠人の幸せを、最期迄見届けたくて。 今、彼は庭にいる。 「柚、立派に育ったなぁ」 彼は私に話しかけているのではない。 私が死んだ年に、庭に植えた柚の木だ。 「本当はこの12年、柚と過ごしている筈だったのになぁ」 木に寄りかかるようにして、その場に蹲る彼。 「俺もその内、そっちへ行くから。ありがとなぁ、柚っ…」 彼が涙声で発した言葉を聞いた瞬間、体が溶けていくのを感じた。穏やかに空気と混ざっていき、しゅわわわわと炭酸水の泡のように消えていく。 「ああそうか、私は、彼の幸せを見届ける為じゃない、自己満足のためにいたんだ…」 最後の力を振り絞り、悠人に「ありがとう」と囁く。そして、天に昇っていった。 悠人は、12年前に死んだ恋人、柚のありがとうと言う声を聞いた気がして、ばっと振り返った。 勿論、そこには何も見えない。 でも、柚がいた気がした。 数年後、死別したある恋人が、天国で再会したらしい。 終わり
みんなの答え
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すごい!
すごいねよくこんな話思いついたね! 言葉が出てこない… とにかくすごい!!!!!!!!!
素敵ですね
とても素敵なお話ですね!! 「「あのさ、悠人」 「なんだよ」 あのね、私難病だから、別れて下さい… その言葉が、彼に届く事は無かった。 悠人の後ろから車が突っ込んで来るのが見えた私は、咄嗟に悠人 を突き飛ばして庇ってしまったのだ」 ここの表現の仕方というか、文章の組み立て方というか… すごく好きです。 ぜひ語彙力を分けていただきた((