桜咲く
私の名前は品川胡桃(しながわくるみ)。平均的な小学五年生。 医療従事者の両親は仕事が忙しく、ここ一ヶ月は録に顔を合わせていない。いじめられている訳でもないが、特に友達もいない。 ある日の昼下がり、校舎裏の桜の木の下で一人寂しくまどろんでいると、女の子が現れた。 多分年齢は私と同じぐらいで、真っ白な髪と肌に異様に赤い目が眩しい。頬には全くと言ってもいいほど血の気がなく、桜の模様の入った薄桃色の着物を着て、髪の毛を肩のあたりで髪紐でゆるく結んでいた。 「…綺麗」 思わず声が漏れ、口を塞ぐ。 女の子は一瞬驚いたように目を見張ったが、すぐにまた笑った。 「ありがとう」 「あの、貴方の名前は?」 悪戯っぽく笑う。 「さあね。何だと思う?」 迷った末に答える。 「…桜、とか?」 「うん、じゃあ桜って呼んで」 その日から毎日、昼休みは桜の所へ行った。 「桜ー、今日も来たよー」 「はいはい。他にすることないの?」 「桜と遊ぶ方が楽しいもん」 桜は私の知らない遊びを沢山知っていた。 「今日は雪ん子をしよう」 「雪ん子?何それ」 「雪ん子っていうのはね…」 桜と会ってから三ヶ月ばかり経ったある日。いつもの桜の下に行っても、桜はいなかった。 「さ、桜?」 探してみると、桜の根本に綺麗な字で 「胡桃へ。桜より」 としたためられた手紙が置いてあった。 震える手で封を切る。 「胡桃へ。 私は幽霊でした。三百年ほど前、この容姿が原因でここにあった池に沈められ、殺されました。池が埋め立てられてなくなり、戦争が起こり、学校が出来ても、私は成仏出来ませんでした。そこで、胡桃とあったのです。胡桃は私の見た目を『綺麗だね』と誉めてくれたんです。見える人も只でさえ少ないのに、そんなことを言われたのは初めてでした。 胡桃と楽しく過ごしていると、神様から知らせが届きました。もう未練は無いので、成仏出来るそうです。 直接話せなくてごめんね。私の未練は『綺麗』って誰からも言われなかった事です。 成仏させてくれて、綺麗って言ってくれて、ありがとう。この桜の花言葉を、貴方に贈ります。 桜より 」 「…お、礼言うのは私だよぉっ、ありがとねぇっ!」 いつの間にか、私は泣いていた。 スマホで八重桜の花言葉を調べてみる。 桜の花言葉は、「精神美」。 また、涙がでてきた。 終わり