はじめの一歩
それは、肌を焦がすような太陽が輝く暑い夏の事だった。 受験生にとっては大切な約1ヶ月半にも及ぶ夏休み。汗をかき必死に机に食らいつく受験生が多い中、同じく受験生であるはずの遥輝(はるき)はあろうことか、クーラーが効いた冷たい部屋のフローリングで大の字になって寝転がっていた。机の上に散乱している宿題にも手を付けず、ただひたすらに麦茶の中で時折カラコロとなる氷の音に耳を傾けていた。 「……進路どうしよう。」 そう呟いた独り言は誰の耳に届いたわけでもなく、ただクーラーで冷えた冷たい空気に溶けて消えていった。遥輝はおもむろに手に持っていた『第2回進路希望調査』と書かれたプリントを電気で透かし、ぼーっと見つめた。生徒名と保護者名。それ以外は何も記入されていないそれは、今や遥輝の大きな悩みとなっていた。 別に行ける高校が無いわけでは無いのだ。遥輝の頭なら周辺の高校なんざ行けるところはいくらでもあるし、今から必死に頑張ればこの辺りでは有名な高校への入学だって叶わないことではない。ではなぜこんなにも頭を抱える羽目になっているのか。簡単なことだ。ピンとくる高校がない。ただそれだけの話。花の高校生活。楽しい青春ライフ。そんな日常を送れると思える高校が見つからないのだ。我儘を言うな?知ってるさ。とりあえずいい高校に入っておけ?耳にタコができるくらい聞いた。何度周りにいる人生の先輩達に相談したことか。何度ネットで評判のいい高校を探したことか。それでも遥輝は決めかねていたのだ。 「せめて夢さえあれば専門学校行けるんだけどなぁ」 そう、夢さえあれば。夢が無い自分にとって専門学校など到底届きやしないのだ。それでもやはり、同じ職種を目指す仲間と共に夢に向かって走り続ける専門学校は、遥輝にとっては憧れに近い存在だった。 夢さえあれば。 もう何回この言葉を呟いたことか。これでも幼稚園の時には宇宙飛行士という夢があったのだ。雲よりも、空よりも高い未知の世界でいく億もの星々を見ることが出来る。なんてロマンがある話だろうか。だがしかし、そんなもの一時の夢に過ぎず今の遥輝には宇宙など眼中に無かった。 「……あー、うん。やめだやめ。考えてたらキリがない。」 分かってたさ。夢なんて持てないと。なににも興味が無いのだから。考えるだけ虚しくなる。 まるでネガティブな感情を振り払うように、遥輝は頭を左右にぶんぶんと振ると気分転換にとテレビのリモコンを手に取り、電源をつけた。ちょうどお昼のニュースが放映されている。が、政治に特段興味があるわけではないのでニュースは右から左へ流れていく。カチカチと音を鳴らし進む秒針が、時の流れを知らせる。 さぁ、長すぎる休憩ももう十分だろう。そろそろ勉強を再開しなければ。そう思い、ペンを手に取ったその時だった。 『──です。それでは次は今日のトピック!今回はあの有名料理店《夢人》の料理人を務める桜井良和(さくらい よしかず)さんに密着取材をさせて頂きました!』 不思議と手が止まった。何故か分からない。分からないけれど、それが妙に遥輝の心をくすぐるその事実だけは確かだった。 「料理人……」 呟く度にほかほかと胸が暖まった。よく分からない感情が溢れ返った。 遥輝は宿題を投げ捨ててテレビを食い入るように見た。 「すげぇ!!」 流れるような包丁さばき。目を見張るほど美しい盛り付け。料理人としてのその志。その全てに感動した。 あっという間だった。約20分もの時間がまるで一瞬のようで。心臓がドキドキした。こんなにも胸が高揚したのはいつぶりだろうか。 「料理人、俺料理人になりたい……!料理の専門学校に通いたい!」 夢が出来た。進路が見えた。道が、見えた。とにかくまずは学校を探さなければ。遥輝はそう思うが早いか早速自分のノートパソコンで検索アプリを開いた。未だに胸の高まりが抑えられず、幾分か操作が雑になっていた。けれどそんなことどうでもよかった。遥輝の頭はもう夢と希望でいっぱいなのだから。パソコンの画面に映る遥輝の顔はかつてないほどに嬉々(きき)としていた。 数分後。机上には進路の書かれた1枚の紙と机に向かい必死に勉強をする遥輝の姿があったという。
みんなの答え
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考えさせられました!
こんにちは!中3のNanami⊿☆と申します。 私も今年受験生なので、とても考えさせられました! 私は将来の夢がありません。だけど、 勉強や成績は大事。今は何もやりたいことがなくても、いつか挑戦したいことが見つかったときの為に勉強を頑張ろうと思いました! あと、主さん、めちゃくちゃ文書くの上手ですね! 内容に引き込まれました。笑笑 それでは、ばいびー★⊿