贈り物
「はい、これあげる」 「いいの?ありがとう」 小さな掌に乗った石は大きく、キラキラと輝いていた。 けれど、それは幼さ故にそう見えたのだ。実際はどこにでもある普通の石だ。それが当時の私には、珍しい不思議な石だった。 もう、それがどこにあるのかさえも分からない。 昼休み、年相応にはしゃぐ人で教室がいっぱいだった。 私はそんな空間から自分を塞ぐ様に、お気に入りの本を開いた。読書は良い。その本の世界に入って、あたかも自分が登場人物になったかのようにドキドキやワクワク、ハラハラといった感情に浸れるからだ。 予鈴が鳴った。途端に自分は元の世界に戻される。本でも現実でも私は世界に一人取り残されてしまった。この世界はいつだって真っ暗だ。何も見えない。 「田中さんてカナちゃんと仲良かったよね。あの子は?」 すると近くの女子が話しかけてきた。 「......知らない」 私は何も知らない。思い出したくないけれど、あの子は何も教えてくれなかったから。 私は今駅のホームにいる。その向こうにいるのはずっと昔の友達だった。 (何でこんな所に?) 疑問がたくさん生まれながらも、その人に会いたくて仕方がなかった。 「カナー!」と名前を叫ぼうとすると電車が来て消えてしまった。 気が付くと家のベッドにいた。 (夢、か......) あの子の事なんてもう、忘れたと思っていた。それなのに、何故か思い出してしまう。 不安な夜が過ぎれば、憂鬱な朝が来て学校に行く、そんな毎日だ。何もできない自分に嫌気が差す。 「おはよう」 朝、学校に着くと斜め前の席の人が明るく話しかけてきた。無邪気なその姿、と朝の太陽が重なってより一層眩しい。 「おはよう」 ぎこちなく返すと、今日の宿題について訊かれたので、してきた物を一通り答えた。 朝の出欠確認で彼女の名前が「太田 美陽(おおた みよ)」という事を知った。 それから太田さんとは、好きな芸能人や音楽、教科などについて話した。ずっと避けていたが、案外、人と会話するのもいいな、と思えた。 学校ではミヨのおかげで明るくなり、更に「優しい」と色んな人から信頼されるようになった。ミヨとは毎日のように喋り、好きな本の話やスポーツの話、お勧めのカフェの話、など色々した。 けれど、何故か、夜の不安と朝の憂鬱は消えない。 今日は特にそうだ。気が付くと鳥のさえずりが聞こえて朝になっていた。 また昔の事を思い出しては漠然とした不安に駆られた。 まだ早いらしく、とりあえず顔を洗う事にした。寝起きだからか鏡に映る自分の目は何も映していないようだった。 「私を、カナを、殺さないで」 気が付くとそんな事を呟いていた。 殺してなんかいない。私は悪くない。それに、そのままの私って誰が受け入れるの?皆が好いてくれるから私は幸せなはずだ。 けれど、胸にとっかかりが残るのはどうして? 私には親友と言える人が一人居た。お互い内気なので他に喋る人は居なくてほとんどの休み時間は二人で過ごしていた。 或る日、石と手紙をもらった。その手紙に有った「親友」の文字が印象に残った。誰かから「親友」と言われたのは初めてだった。 けれど、小さなぶつかりや、接点が少なくなった事で関係が悪化して、遂には先生から彼女がどうなったのか伝えられた。 それから彼女に会う事は無かった。 「親友なら何かすべきだった」「親友なら謝るべきだった」など「親友」という言葉に縛られた。 手紙をちぎり、ゴミ箱に捨てた。 石は近くの河原に投げ、彼女と撮った写真は全て消去した。 それから彼女の事を忘れる様にした。 今ではこんな最低な自分も捨てたくて偽善者になった。 そのせいか、世界が真っ暗に見える。 数日後、ミヨにちょっとした事で「優しい」と言われた。 そこで「本当は最低だよ」と言ってしまった。 すると、軽蔑する訳でもなく「私も」と話した。 それからはお互いの良い所も悪い所も理解して接する様になった。 私は親友に手紙を書く事にした。今度は私から贈り物をしたい。 一人は明日にでも、もう一人はいつか会える日に。 どうかこれからも残りますように。