看護師の眼
ある病院にて。私は弱っていた。 呼吸を止めまいと、口を必死に動かす。 医者は告げた。「あなたはもう、長くない。」 看護師さんは私を見下ろす。 医者に届かない細い声で、可哀想にと。 「可哀想に。」 そんな言葉を、病人を哀れな目で見る奴に言われると腹が立った。 弱々しい奴を見る目で見られるとみじめに思えた。 動かしていた口元を食いしばって、なにがなんでも生きてやる。そう思った。 一年後。 死んだ方が楽になるんじゃないかと思っていた、1月の朝。 私の息が雪の音を乱してゆく。 するとガラッと扉が開き看護師が入ってきた。一年ぶりにみる冷血な顔。慌てて目をこすり彼女をにらんだ。 自分に「はい、生きます」と心の中で敬礼した。 その後も一年ごとに彼女は入ってきて私を見下ろす。そのたびに死んだ方がいいのではという思いが消えてゆく。 20年が経ち私は最期を迎えようとしていた。意識がもうろうとする中彼女はこう言った。「入ってくるたびにあなたは生きようとしましたね。扱いやすかったです」 私は閉じかけの目を見開いた。 彼女はまた私を見下ろした。 でもその眼には大粒の涙が光っていた。