椿姫
この花好きだなぁ......だって...... 夜の中彼は必死に彼女のところへ行こうとしていた、足は鉛のように重く冷や汗が体を濡らす。その間にも彼女との思い出が繰り返される。走馬灯なのか?いやついさっき見たばっかりだ 彼は自分が何者か気付いていない、蛍光灯の下ぼんやりと彼女が見えた。彼は走って彼女のところへ行き 涙を流した。だが彼女は紅い唇を上げてこう言った 「どうしているの?」 彼は言う 「君に逢いに来たんだ。」 彼女は少し哀れんだ顔をして言った 「冥土の道を戻ってきたの?」 彼は分からない 「どういう事だい?」 彼女は冷めた目で言う 「貴方はもう死んでいるのよ。2日前にね」 彼はそこで全てを思い出した。 自分が事故で死んだ事、自分がもう生者ではない事。彼は顔を引きつらせながら言う。「愛してるよ。それが僕の未練だ。」 彼女に今でも愛されていると分かれば解ける呪いだ。だが彼女は言った「死人に口なし。今の貴方じゃ呪いは解けない。私に愛されるものになりなさい」彼女はニコッと笑い夜の闇に溶けていった。残された彼は涙を流しながら自分の体が変わっていくことに気が付いた。椿の木になってゆく。ああそうか今の僕じゃ愛されないだから君の好きな物になるんだね。顔にまで椿に花の香りが漂ってきた薄れていく意識の中、彼は彼女の事を思い出した。 椿を見ながら彼女は言った 「この花好きだなぁ......だって咲く時は私のようで散る時は貴方みたい。」 彼は椿として咲き人として散ってゆく。 彼は言う 「愛しているよ。」椿の最後の一葉が咲き、そこにはただ散る事を待つ椿があった。