レモネードの味
カランカラン。ガラスコップの中で琥珀色の液体を彼女は氷を巻き込みながら掻き混ぜた。 「君っていつもそれ頼んでるよね。」 決して悪気はなく、率直な疑問を問いかけた。 「私がなに飲もうと勝手じゃない?」 彼女には僕の発言が嫌味に聞こえたらしい。顔にこそ出ていないが声色には少しの不機嫌がでていた。 いつも来ているこの店は時間が時間だからか客が僕ら以外いなかった。店内に流れているゆったりとしたクラシックとポツポツとしか着いていない淡い照明が相まって意識がハッキリとしなくなってくる。彼女の不機嫌が気に食わなくて僕はさらに酒を煽った。 「それに少しは酒癖を改めたらどう?」 彼女がレモネードを口に含みながら、そんなことを言ってきた。もう何杯目か分からない程に酒を飲み頭が回らない僕とは違い、彼女は的確な指摘をしてくる。 「君ってそんなに優しくなかったっけ?」 もうこれを言うのも何回目だろう。質問を質問で返すな、なんて言われそうだなと思いながら言う。しかし今日の彼女は疲れているのか、はぁーと大きなため息をだしただけで反論はしてこなかった。 グラスが空になっていることに気が付いたのでマスターに「同じのをもう1杯」と声をかけた。マスターはやんわりと微笑んで「かしこまりました」と言ったあと、カウンターの奥の棚を漁り始めた。 手持ち無沙汰になった僕は机に突っ伏した。 「ねぇ。」 いつもの僕なら返事すらしなかっただろう呼び掛けに僕は顔を上げて彼女を見た。それは彼女の声がどこかいつもと違ったからだ。 「もうさ、こういうのやめようよ。」 彼女は表情を変えず、ただ僕の目を見つめて言った。 その一言が僕の心に突き刺さった。何故だか分からないが胸が苦しい。なんだったろうか。思い出せない。 涙がボロボロと目から溢れる。彼女の綺麗な目が、輪郭がぼやけていく。君はいつだって優しかった。そんな所に僕は惚れたんだった。 ああ。違う、違うんだ。僕は、ぼくは ぽんぽんと軽く方を叩かれて初めて僕は寝てしまっていたことに気が付いた。顔を机に突っ伏していたからか顔が痛い。 はっと咄嗟に彼女がいた席を見るが、そこにはもう誰もいなかった。 「あの、彼女は?」 僕を起こしてくれたマスターに問いかける。呆れたような表情をしながら「あの方ならとっくに帰りましたよ。」と教えてくれた。また彼女を怒らしてしまったようだ。 「すみません、ありがとうございました。お釣りはいいです。」 早口で伝えながら財布の中からしわくちゃになったお札を渡してそそくさと僕は店を出た。 彼が去った後の机には中途半端に酒の入ったグラスと、頼まれてから手の付けられていないレモネードが置かれていた。 【個人的な解説】 ※このお話はハッキリと書いていないので色々解釈があります。これは私がこんな感じでイメージしながら書いたよ、と言うやつです。色んな解釈があってOKです。 主人公の男性には恋人がいた。彼らは行きつけの店でいつも飲んでいた。彼女が好きなのはレモネード。彼は飽きないのかな、とも思いつつ、彼女と話す時間を楽しんでいた。だがとある日、彼女は亡くなった。彼は悲しみに暮れた。そして、酒を飲んだ。彼女はもう居ないのに、いつも酒と共にレモネードを頼む。そして彼女との時間を思い出していた。彼女はとても優しい人間だった。それ故に彼にこんなことはやめて、新しい人生を歩んで欲しいと思い、彼の中の想像の彼女は少し不機嫌だった。彼も本当はこんなこと良くないとは分かっているが、とても受け入れられなかった。マスターが呆れていたのは、酒を飲んでは存在するはずのない彼女に思いをよせている男性を何度も見てきたから。 最後に!ここまで読んでいただきありがとうございました!
みんなの答え
※きびしいコメントを見たくない人は
「見ない」をおすと表示されなくなるよ!
す、すごい...
こんにちは! 年下から失礼しますm(._.)m お豆太郎さんの短編小説、 めっちゃ凄いと思いました。 出版しても良いような 短編小説でした。 読んでて圧倒されました。 また是非書いてほしいです! ファンになりました!!笑
凄すぎる!
あなたは天才ですか!? 私と2つしか変わらないのに… それ悲しすぎます! 主人公は彼女を亡くした後も レモネードを頼むなんて 意味が深すぎます ↑熱く語りすぎました笑
おお
すご 小説サイトとかにアップしてみたら?すげぇ。
すごいすごい!!
おおー!!そうゆう事ねー!! よくこんな凄いの作れますね!! また作ってくださいね!!
素晴らしい
心象の描写が的確にして、文学的。川村元気さんの小説を彷彿とさせるような感傷的な描写の一つ一つが宝石のよう。機会があれば、またあなたの小説を読ませていただきたいです。