恋の勘違い
気づいてた。天音(あまね)は相葉(あいば)先輩のことが好きだって。 天音と相葉先輩は両思いだということが私には分かっていた。洞察力が優れていると苦しいこともある。不毛な恋はしたくないし、想いを伝えて自爆するのも嫌だった。つまり、私は逃げたのだ。私は天音の恋を応援することにした。天音と相葉先輩の恋は見事、実った。失恋は苦しいものだと言う。でも、私は苦しくもなかったし、泣かなかった。我ながら、不思議でたまらなかった。一向に結論が出ないこの問題に悩みながら靴箱に着くと、担任教師から話しかけられた。 「大宮(おおみや)」 「なんですか、先生」 「中原(なかはら)が教室に残って作業をしてるんだ。手伝ってやってくれ。用事があるか?」 同じクラスに中原という名字の男子生徒がいる。名前は翔(なかはらしょう)。 「ありません。分かりました、手伝います」 頼むぞと言って先生は職員室に入った。 教室に行くと、翔が部活の予算の作業をしていた。 私が通う私立の学校は予算も生徒会が決める。 最終的な判断を下すのは学校側、先生たちだけど少なくとも大抵は生徒会が決めたもので通る。 私も生徒会役員だから一応、そこらへんは知っている。 「どこまで進んだの?」 尋ねると、答えがキャッチボールするかのように返ってきた。 「あと一個で終わる。新聞部が残ってる」 「そう。新聞部って大所帯だからね。コブケンは?」 コブケンとは古文研究部の略。私が所属する部活だ。漢文を読んだり、和歌を詠んだりと、とにかく日本文化の研究をしている。ただ、学期末は大学受験を控えた三年生に図書室にある本を奪われるためにやることが無くなり、暇つぶしの部活となる。 おかげで、古文、漢文、現代国語のテストの点数が良い。 部員は私も含めて十人。 のびのびと穏やかに部活動が出来ます。緩く部活をやりたい人は是非とも我がコブケンへ。 「比較的部員が多いからそれなりに予算は取ってある」 「比較的って。他の部活が極端に部員が少ないだけでしょ。思想研とか部員、五人でしょ?部員が一人もいないやらしい歌研究部とかあるし。あの、部活なに?色気がある歌をひたすら歌うの?」 「世界各国の色気がある歌を集めて、文化祭に文集を出すんだ。その歌の意味とか歌詞を載せてね。もちろん、男子はその部活に実は入りたい。だけど、女子の目が怖くて入れない。結果、部員はゼロ人。だけど、他の部活の幽霊部員が密かにやらしい歌研究部で活動してるから廃部にならない。学校側も分かってるんだよ。他の部活に名目上は所属しながらも、本当はやらしい歌研究部員の生徒がいることを」 翔は立て板に水のように話した。私は翔に聞く。 「その部活の略って何?」 翔は仕事を終えたようで、紙を持って席を立ち、私に囁いた。 「絶対に吹聴するんじゃないぞ。やらしい歌研究部の略称はないけど、こう呼ばれてる。女子に嫌われる部活」 私は吹き出した。翔も笑い出した。 日曜日。 私はガラが悪そうな男たちに絡まれていた。 やめてくださいと叫ぼうと思った直後、私と男たちの間に、誰かが割って入った。そして、毅然と言った。 「やめろよ。嫌がってるだろ。嫌がってる女子を無理矢理誘うのは大人失格だぞ」 男たちは舌打ちをして私から離れた。 声で分かっていた。私を助けてくれたのは翔だと。 「大丈夫?」 聞かれて、私は頷いた。その瞬間に分かった。あることが。ただ、それは信じられなかった。私って本質は尻軽なのだろうか。 「何で私を助けたの?素知らぬふりして通り過ぎてもよかったのに。そっちの方が翔にとって安全だったのに」 「大宮って堅そうに見えて、割と弱いだろ。そんな女子を見逃すほど俺は冷たくない」 それだけ言うと、翔は角を曲がって私の前から消えた。 家に帰った私は悶々と考えた。そして、一つの結論に達した。私は相葉先輩のことが好きだったんじゃない。翔が好きだったのだと。相葉先輩への恋心は勘違いだったのだと。翔よりも私にとって近い位置にいたのが先輩だからそう思ってしまったのだと。失恋しても悲しくもなんともならなかったわけだ。 登校中に翔と会った。 翔は私を見るなり、言った。 「あの、付き合ってくれない?」 翔の顔は赤くなっていた。 私は頷いた。 「うん」 緊張していた翔の顔が明るくなる。 私は笑顔を零し、翔の横を通り過ぎた。翔がついてくる。 天音が私を見て、微笑んだ。みゆ、良かったねと言っているようだった。もしかしたら、天音は気づいていたのかもしれない。私が翔を好きだったことを。そして、天音は私が恋の勘違いをしていることに気づき、先に恋を実らせたのかもしれない。もしそうだとしたら、天音には完敗だ。
みんなの答え
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しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!
先輩が相葉だの好きだったのが翔だの天音優しいだの最高!!好きです!(先輩と翔を櫻葉と重ねてみてたのはお許しを…)