幻想の彼女
彼女はハルカと名乗った。綺麗な目鼻立ちをしていて、ワンピース姿の少女だった。 彼女は僕が病院で処方してもらった薬を飲み出してから現れるようになった。 「ねえ、今日の夕ご飯はなに?」 ハルカは壁に飾られた自分の絵を見て僕に聞いた。 絵は僕が描いたものだ。完成した絵を見て、ハルカは喜んでくれた。 「ご飯、ハンバーグ、サラダ、ハム」 「美味しそう」 そう、彼女は微笑んだが、ハルカは夕ご飯を食べずに帰っていく。理由は聞いたこともないし、聞こうとも思わない。高校生くらいだから、門限とかがあるのだろう。 「じゃあね」 僕が夕飯を机に並べ始めた時を見計らって彼女は胸の前で小さく手を振った。 「うん。また」 僕が言いながら顔を上げた時には彼女はもう、家にいなかった。 黒川(くろかわ)は田辺(たなべ)と家に急行した。 町の小さな病院が薬局と共に患者に薬物を処方していたことが分かったのだ。 その患者はあと一人。 黒川は急いで患者の家に向かった。 ハンバーグを口に入れた時だった。 ピンポンと軽快な音が家に響いた。 僕は玄関のドアを開けた。 外にいたのは二人の男。 男たちは警察手帳を見せ、事情を話し出した。 通常、薬物は気持ち悪い幻覚が見えるが、僕が飲んでいたのはそういったものは見ないものだった。幸せな幻覚が見えるのだ。さらに、僕が飲んでいた薬物はアッパー系という食欲を促進するもの。確かに、ここ最近、食欲が旺盛になったと思った。 そんなことよりも、 「ハルカは僕が見ていた幻覚?本当にいない?」 黒川と田辺と名乗った二人の巡査部長は頷いた。 ハルカにはなんでも話せた。職場であった嫌なこと、食べ物が高いこと、なかなか周りには言えないこともハルカなら言えた。 いくら叫んでも、ハルカは来なかった。 ハルカは幻覚、現実にはいない。 雨が降って来た。でも、どこかおかしい。刑事たちは傘をさそうとしなかった。あ。そうか。僕が泣いているのか。頬を伝う、温かい感触を感じてそう思った。 慌てて服の袖で涙を拭う。でも、涙は止まらなかった。 餃子を口に放り込む。 ハルカはもう僕の前に現れることはなかった。 壁に飾られた絵を見る。あの中のハルカは柔らかく微笑んでいた。