とろりとろけて花吹雪
とろり 何かが溶けていく。 これは、恋だ。 「桃!帰ろうぜ!」 後ろから私の好きな低い声が聞こえる。 振り向くとそこには大きく手を振ってこちらに笑いかける尊い人。 彼の名は楓風太という。 私と風太は幼稚園の頃から友達だ。 最近はちょっと違うがそれは私だけの秘密。 「うん。帰ろ。」 直ぐ彼の隣にいく。 赤いランドセルと黒いランドセルが仲良くひっつく。 「桃、今日公園で遊ばねぇ?」 「駄目だよ。今日いっぱい宿題出てるから。」 すると彼は「えぇー」と締りのない声を上げる。 「お前いっつもそれじゃん。」 「仕方ないじゃん。鷲田(わしだ)先生毎日宿題多いんだもん。」 それを聞いてはぁー、と深くため息をつくと「話したい事あったのになぁ」と呟いた。 「話したい事って何?今言えばいいじゃん。」 そういうと 「だめだよ!ここじゃ言えないの!」 と怒ってしまう。 「じゃあ今から公園行こう。」 「え、いいの?」 「いいよ。別に。私殆ど人が居ない公園知ってるんだ。」 ぽかんとする彼の腕を引いてその公園へと走り出す。 公園の桃の木の下には沢山の桃の花弁(はなびら)が落ちていた。 「で、話って?」 促すと彼はちょっと待って、と息を切らしながら言った。 しばらくして呼吸が落ち着いたのか口を開く。 「俺さ。3組の桜田さんと付き合う事になったんだ。」 ......あれ。おかしいなぁ。雨なんて降ってないのに、自分のところだけ地面が濡れてるよ。 泣いていた。 やさしい彼は何で泣いてるのと慌てて聞いてくるが私には答える余裕がなかった。 どんどんと目から溢れ出る雨を止めようと手で拭うが小さい私の手では拭いきれなかった。 ショックだった。 なんとか大丈夫とだけ言って私はその場から足早に去る。 途端に強い風が吹く。 その風に桃の木下の花弁が持ち上げられあちこちに舞う。 私の失恋を見送るには丁度いい花吹雪だった。 とろりとろけた恋慕(れんぼ)はあっという間に花吹雪によって攫われた。 「お幸せに!」 後ろを振り返って呆然と立っていた彼に私は大きな声でそう伝えた。