小説~トランペット奏者の君~
午後四時。授業が終わって部活が始まる時間だ。 今日は掃除が無かったので私はすぐに部室に行き、鞄を置いて楽器庫へと向かった。楽器ケースから、他の楽器よりも何倍も大きくて重たいチューバを取り出す。 平日は個人練習なので、いつも個人練習をしている場所へと行った。 「こんにちは」 「ん、やっほー凪(なぎ)ちゃん」 右手にトランペットを持ち、左手をひらひらと振るこの人は、トランペットパートの優(ゆう)先輩。 幼い頃からトランペットを吹いているそうで、実力はかなりある。数少ない貴重な男子部員の一人。沢山の部員から好かれていて、とても優しく頼りになる先輩だ。 「凪ちゃん、今日は自由曲合わせようよ」 「はい。準備するのでちょっと待ってもらっても良いですか」 「うん」 何故、そんな人気者の先輩がここにいるのかは分からない。去年くらいから、個人練習のときは先輩と同じ場所で練習するようになっていた。 私は音出しをするため、楽器を持ち上げてキノコのようなスタンドにチューバを乗せた。息を吸って楽器に吹き込むと、低く、うなるような音が出てくる。 ロングトーンや音階の練習を軽くやって、先輩に話しかけた。 「お待たせしました。自由曲最初からですか?」 「うん。インテンポでいこう」 「わかりました」 先輩がメトロノームのテンポを合わせる。 「じゃあいくね。1、2、3、、」 トランペットの高音と、チューバの低音が重なりあう。 先輩が主旋律を奏で、私が4分音符ばかりの伴奏。最初のころはつまらないと思っていたけれど、最近はメトロノームに合わせて4分音符を吹くのも、何だかんだ楽しいと思うようになった。 もうすぐコンクールだ。先輩のソロの部分を聴きながらそんなことを思った。 コンクールが終われば先輩方三年生は引退だから、もう優先輩とも練習できなくなる。そうか、先輩のソロを聴くのもあとわずかなんだ。 「凪ちゃんどうした?次、低音のメロディ部分だよ」 「あっすみません!少し考え事をしていました。前の小節からお願いします」 低音は伴奏ばかりだが、時々メロディがある。そんなとき、低音のメンバーで喜んだりするくらいメロディは大切な存在。一音一音、より丁寧に思いをこめて吹いていく。 吹奏楽部の低音楽器はチューバの他にもバリサク、バスクラ、コンバスなどがあるので、その楽器の音とも綺麗に重なるように吹かなければならない。最初の方は難しかったけれど、最近は意識をすればできるようになった、と思う。 「よし、良い感じだね。凪ちゃん前より上手くなってる」 「そうですか?ありがとうございます。先輩のソロ、今日も素敵でした」 「ありがとう。最後のコンクールだから特に力が入ってきてるのかな」 先輩は空を見上げ、何かを飲み込むような表情をした。 「凪ちゃん、俺さ、コンクール終わったら凪ちゃんに伝えたいことがあるんだ」 「私に伝えたいこと…ですか」 「うん。だから、コンクール終わったあとちょっとだけ時間貰うね」 「先輩、ソロ頑張ってください!応援してします!」 「ありがとう。県大会金賞目指して頑張ろうね」 「はい!!」 先輩と一緒にいられる時間は残り少ないけれど、その時間を大切にしていきたい。もっともっと楽器を上手く吹けるようになって、先輩の隣に立てるような人になりたい。 私はこれからも、チューバを吹いていく。 終わり。 以上です!見ていただきありがとうございます。 吹奏楽部のお話にしました。チューバは吹いたことが無かったので、チューバ吹きの方が読んで、あれ?となるところがあったらごめんなさい。いつか、自分の担当楽器コントラバスの子が出てくる小説も書いてみたいです。感想是非、よろしくお願いします。