短編小説みんなの答え:0

夏の恋

カラン、カランと下駄の鈴の音が心地いい。私は夏祭りに来ていた。 祭りに行くなんていつぶりだろう。学校の文化祭なんかにも行ったことは無かったし、人と遊ぶのは好きじゃないから誘われても断っていた。何より、人と交わることが大嫌いだった。みんな、仲良くなんて夢物語だし、みんな、平等なんて馬鹿らしい。外見だけの平等なんて気持ち悪い。平等にするなら、きちんと、中身までそうしてほしい。差別とかそういったものだ。やることに意味があるなんていっても、出来ないのなら無駄骨になる。結局は大人たちが掲げる社会なんてできやしない。 私が夏祭りに来たのはちょっとした見物程度だ。 わざわざ浴衣を着て来たのは他でもない、浴衣を着る機会がなかなかないから、せっかくかった浴衣が勿体無いのと、私は浴衣が好きだからだ。着る機会があれば来て行きたい、そう思うのは当然の心理である。それに、七宝の模様のこの浴衣は気に入っている。 焼きそば、綿菓子、とうもろこし。並ぶ屋台を見ながら、私は歩く。その足が止まった。 右斜め前方、キャピキャピ系女子、発見。私が最も苦手とするタイプ。見つかると、「あ、涼葉(すずは)、なに、来てたの?一緒に回ろうよ」と言われかねない。 私は屋台で売っていた狐の面を顔の右側に装着する。そそくさと辺りを見回したが、そそられる屋台が無い。小説を売る屋台があればよかったのに。もしあったのなら、私は祭りが終わるまで入り浸っただろう。だが、無いものは仕方ない。下駄の鼻緒が切れたふりをして、隅にしゃがもうか。いや、でも、他の人の迷惑になる。 1人がこちらを振り向きそうになっている。 私は悲壮な覚悟を胸に水ヨーヨー釣りの屋台に行った。三百円を払い、子供に混じって水ヨーヨー釣りをする。 ……悲しい。高二女子が幼稚園くらいの子供や小学生ぐらいの子供に混じってヨーヨーを釣るとは。不本意な結果だ。せめて、スーパーボールにすればよかった。いや、それでも同じことになったか。 私がゲットしたのは五つのヨーヨー。五つもヨーヨーはいらない。一つで十分だ。三つは親戚にあげよう。小二と幼稚園の年中の兄弟、小一の女の子がいるから、ちょうどいい。あのぐらいの年齢なら丁度、楽しめる頃だろう。一つは中学二年の妹、涼帆(すずほ)にあげよう。要らないって言うかもしれないけど。そう決めて、歩き出す。 キャピキャピ系女子の群れは私から離れていた。見当たらない。 しばらく歩いていると、華奢で女みたいな顔の私と同い年くらいの男の人がいた。確か、同じ学年の人。名前は確か、隼人(はやと)。 「涼葉さん。ねえ、ヨーヨー、くれない?小一の弟にあげたいの」 私はヨーヨーを差し出す。妹にあげるつもりだった物を。 「どうぞ」 「ありがとう」 そう、にっこりと微笑む。その笑顔は暖かくて優しかった。 それを見て、言葉で表現するのが難しい思いが湧き上がった。なんて言えばいいんだろう?しばらく模索する中で、私は適切な言葉を見つけた。恋。

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