レモンの飴。
最初で最後の初恋は忘れたいのに忘れられない。まるで、あの日のレモン味みたいに。 初めて灯を見た日。確か小学校の低学年の頃。隣の空き地で赤い紅葉をくるくると指で遊んでいた。気付けば私の足は彼に向かって進んでいて、私は灯に向かってこう言っていた。 「君、誰?」 わざわざ、やって来てまでいう言葉だろうか。ただ、灯は気味悪がるがらず 「立花 灯。火に1丁目とかの丁であかし。、、カッコいいでしょ?」 そう言って笑った。温かくてどこか幼い笑顔だった。灯は隣に引っ越してくるらしい。 「あのね、ここに俺の家建つの。俺ね、自分の部屋もらえるんだあ。」 自慢げに話す彼にの笑顔に思わず見惚れていた時、母親だろうか灯を呼ぶ声がした。立ち去ろうとする灯に私は手を振れなかった。もっと話したい。と言いたかった。そんな私に灯は 「ね、これあげる。」 赤い包装紙のレモンの飴を握らせた。 「明日、遊ぼ。ほら指切りげーんまん」 その瞬間、私は幼いながらに恋をした。ただ、するべきじゃない恋だった。幼い恋心なんて世界の誰が知ることだろう。神さえ知らない淡すぎる恋心。そんな儚い想い。 だって灯との明日は来ないから。次の日、1日中私は空き地で灯を待っていた。今にない一途さが退屈な時間を繋ぎ止めていた。だけど、さすがに6時の鐘がなってしまっては帰らなくてはならない。今ならきっと怒るであろう出来事だが、そのころの私は怒りより悲しみが強かった。私はベッドに突っ伏して目を閉じた。昨日はあんなに待ち遠しかった今日が、今は早く終わってしまって欲しかった。今日のことなんて早く忘れちゃえばいい、そんなことを考えながら眠りについた。 次の日、なぜ灯が空き地に現れなかったか分かった。分かってしまった。アニメを見ようと付けたテレビには家の近くのT字路の崩れた塀と凹んだトラック。そして隣に並ぶ灯の写真が映っていた。視界が滲んで灯の顔かもう一度確認しようと思ったのに出来なかった。拭ってもこらえようとしても溢れてグレーの服に黒いシミが出来た。思わず握ったスカートからはグシャリと音がした。おとといの別れ際、灯にもらったあの飴の包装紙の端は折れ曲がっていた。口に放り込んだレモン味と1日だけの淡い恋心は甘くて苦かった。