よくわからないマントの話
「そこのあなた。」 僕か?突然マントを着た男に呼び止められた。 お昼じゃなきゃ、通報されてもおかしくないぞ。 「何か?」 「このマント、いりませんか?」 というのは、この人が着ているマントだ。 マントをすること自体妙なのに、自分のものを人に..なんてもっと妙だ。 「魔法のマントなんですy『嘘』」 思わず、口に出してしまった。 怒鳴りかかってでもくるかと思ったが、大丈夫だった。 「これは、君が持つに相応しいと思ったんだけど...。詐欺とかじゃないし、お金いらないし、私、清潔ですよ?」 最後のいう必要あった? ...まあ、騙されたと思って、もらうか。 「騙していませんよ?」 いや、今の口に出してないけど?! 受け取ったマントは無色透明だった。それなのに、存在はわかる。 「じゃあ、他の人には認知できないので、普段から着けてみてください。」 そういって、その人は去っていった。悪い人じゃなさそうだけど...。 その日から不思議な生活が始まった。 もらったマントは、身に着けると、様々な色に変化した。 最初は、カメレオンみたいにまわりの風景に溶け込んでいるのかと思ったが、マントは周りから見えないのだから意味もなく、周りにあった色に変色しているわけでもないらしかった。 ある日、友達とのいざこざで、イライラしていると、 「なにかあった?」 と隣の人が聞いてきた。 僕はどうも、普段から気持ちが顔にでにくいらしく、そんなことを訊かれたのは初めてなので、面食らってしまった。 「何で?」 と思わず聞き返すと、 「なんか、表情がかたいような気がして。」 まさか、僕のことをずっと見ててくれてたとか?! そ、それって、僕のことを...。 「別に好きとかじゃないから。」 真顔で言い切られてしまった...。というか、口にだしてないのに...。デジャブ。 その時ふと、マントを見ると、深紅に染まっていた。ぞっとしてしまうような、深く暗い赤。 そして、気づいた。きっと、このマントは、僕の感情そのもので、見えなくても周りに少なからず影響を及ぼしているんだ。って。 それからは、マントの色は元気な黄色から、汚い紫にまで、色鮮やかに変化した。 そのたびに、 「今日、いいことあったの?」 とか、 「体調、悪いの?」 とか、声をかけてもらえるようになった。 みんなに気にかけてもらえるというのは、今までの僕からすれば考えられないことで、意識せずとも毎日が楽しかった。 また別の日、通りかかった公園で、大きな犬と小さい女の子が向き合っていた。 飼い主は、僕の近所にすんでいる人で、挨拶もする。女の子は、確か、娘さんだった気がしたけど...? 「どうか、しました?」 「ああ。君は...。実は娘が、この子を怖がってしまって。」 この子というのは犬のことだ。 「この前、急になめられたのが怖かったみたいでね。仲直りのために散歩にきたんだけど、帰りたいと駄々をこねているんだ。」 犬(名前はトラ、というらしい。犬なのに。)は、大きいとはいえ、大人しい感じだ。今もお座りでちゃんと待っている。 それに対し、女の子は、涙ぐみ、犬と睨み合ってしまっている。 なんとかしたいけど、こればっかりはな...。 と、そこで思いついた。早速、やってみよう。 トラの首にふわり、とマントを巻く。僕が身に着けていたときは、もっと長かった気がしたけど、トラに巻くと、ちょうどスカーフとして使える長さだった。 マントはみるみる優しい桜色に染まった。それと同時に女の子も泣くのをやめ、「かわいい!」とトラに抱きついた。トラも尻尾を振って嬉しそうだ。 持ち主の権利は、トラに移ったらしく飼い主さんにもマントもといスカーフが見えるようになったらしい。「かわいいスカーフだけど、いいの?」と訊かれ、大丈夫と答えるとお礼まで言われてしまった。もともと、もらい物ですけどね。 さてと。これで、一件落着ってとこかな。僕の周りはいつもどおりにも戻ったけど。(笑) 多少は、顔にだすのも上手くなったかな。