サキコさん
「さき子が、死んだそうだ」「ビルの屋上から、飛び降りて、全身を打った」 その話は、誰から聞いたでもなく、自然とメグの耳に入ってきた。誰から聞かされたかも覚えていない。その事実があまりにも重くて、ほかの情報は一切入ってこなかったからであろう。 サキ子さんと会わなくなったあともメグは何となく存在が頭から離れなかった。いや、離れてくれなかった。メグが自分の気持ちに気が付いたのは、サキ子さんがいなくなってから1年と数か月後。メグが彼女の年齢に追いついたころで、メグと似たような考えを持った仲間はメグが気付く前から何人もいたし、偏見のへの字もなかったはずだが、やはりいざ同姓となると気持ちに気づくまでに何か月もタイムラグがあった。 メグはまっすぐ家に帰った。たった一人で駅までの15分間ずっと、サキ子さんのことを考えて思い出していた。切ったり染めたりするにはもったいないまっすぐでつるつるした長い黒髪、エメラルドを砕いてその粉を散らしたみたいなグリーンの瞳。陶器人形みたいな真っ白な肌も、先天性の茶髪で猫のようなくせ毛を持った自分にはないものだった。 死ぬということ、もうこの世には存在しないということ。どうして彼女のことを考えながら愛やら恋やらを語ることばを検索していたのか。それに気づいたすこしだけ後、彼女は旅立ってしまった、誰も絶対いけないところに。近くて遠いメグには自ら旅立った原因なんて想像もつかなかった。ああ、もうそんなに遠くまで。それを知らないほどに自分は彼女を、知らなかったのだ。 彼女がくれたひとかけらのチョコレート、メグがプレゼントしたくしで髪をとくところ、最後にあった日にいっしょに見上げた桜。 そういえば今日がピークなんだっけ。自分の考えている方向とは逆に時間は流れて行ってしまう。エメラルドグリーンの瞳でもう一度見つめてください、だなんて。いちど、自分の手を握って、大丈夫。とまっすぐに言ってくれたことを思い出した。 なにも大丈夫じゃないじゃない。 「サキ子さん」 頭上の桜の花に向かって声を上げた。 「ひどいですね、わたし、またおいていかれちゃった。」 「サキ子さん。」 メグの視界はすべてがごちゃ混ぜになったような何とも言えない色をしていた。上を向いて歩いてたって、こぼれ落ちるものは簡単にこぼれてしまう。 結局何もあなたに追いつかなかった。 あんなにうらやましかった瞳も、成績も、きれいな歌声も、いまは、もういらない。
みんなの答え
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悲しい…
「素晴らしい」の一言しか言えません…! 読んでて泣きそうになりました(´;ω;`) メグはサキ子さんのことが好きだったんですね。 幸せになってほしかった…。 個人的に「死ぬということ、もうこの世には存在 しないということ。~最後にあった日にいっしょに 見上げた桜。」のところが感動しました!