ガラスには映らない
いじめられ始めたのは小学四年生になってからのことだった。 自画像を描く授業が図工の時間にあったから私は顔の半分を花が覆ってる絵を描いた。花にはグラデーションをつけて、花が浮き出してるようにするつもりだった。そしたら、菊輪あみがこう言い出した。 「私と似てるー!」 「菊輪(きくわ)さん、偶然だって」 似てると言っても、顔の半分を花が隠してることだけ。花は大きな花で、多分、牡丹だったと思う。すごい分かりづらかったけど。私には蓮華にさえ見えた。 私はプルメリアを描いた。いくつものプルメリアが私の顔を覆っている。プルメリアはグラデーションを付けて顔の陰から浮き立たせるつもりだった。 そして、案の定、私は5を取った。菊輪さんの成績が目に入ったけど、3だった。 その菊輪さんが全国の絵画コンクールで金賞を取るなんて誰が思っただろう。あれは私の作品。その絵画コンクールに出品する予定だったものを菊輪さんが菊輪あみのものとして出した。 もちろん、私の許可無しで。出すよとすら言ってこなかった。 そして、あの、ステンドグラス。あれは菊輪さん本人が描いた。多分、みんな、いいセンスしてるなって思ったんだろうね。菊輪さんにしては頑張ったよ。まあ、外聞がかかってるからね。 もちろん、これだけじゃなかった。 暴力を振るわれた。 菊輪さんと女子三人組に。 初めは抵抗した。痛かった。でも、徐々にその気持ちすら無くなった。 パシリにされたり、お金も巻き上げられた。 嫌なことを散々やられた。そして、ある時、私は悟った。 この人たちには逆らえない、勝てないと。 だから、美波絹(みなみきぬ)にステンドグラスについて言われた時は絶望した。 なんで、ここまで? 「じゃあね」 そう言って美波さんは私の前から去った。 完成したステンドグラス。 本来は私が嫌いという意味になるはずだった文は私たちはあみが嫌いという文章に書き換わった。 菊輪さんと、菊輪さんの真意を知る者にしか伝わらないクリティカルな攻撃。 気持ちが良かった。菊輪さんに仕返しができた気がして嬉しかった。勝てないと信じ込んでたのに、逆らえないと決め込んでたのに、勝てた。それも、菊輪さんが私を貶めるために作った物で。学校がある限り、永遠に消えない物で。 美波さんにも感謝した。美波さんの妹の澪(みお)ちゃんにも。あの姉妹はよく似ていると思う。容姿も性格も。 絹さんには悪いことをしたと思っている。私の仕返しのために、絹さんは悪者になった。 これが中学校や高校なら良かったかもしれない。受験で忙しいだろうから。でも、ここは小学校。しかも、中学受験をする子は数少ない学校だった。 私のヒーローというか、ヒロインである美波さんと澪ちゃんにはあまり会わないようにしている。だって、会って話したら嫌いになるから。