忍びの想い
忍びの少年がいた。ある日潜入先の城で少年は姫に恋をしてしまった。 月明かりに照らされた城の屋根。 「姫、こんなところにおられたのですか。」 「!?あぁ、夜寅(やすのぶ)。」 姫は話しかけてきたのが夜寅だとわかると安堵とした。 「その様子だと、他の従者にはなにも言わずに来たのですね。」 「だって、みんな私のこと止めるじゃない。ここが1番夜空が見やすいのに。」 「普通、姫は屋根に登りません。これで何回目ですか?貴女の身体能力には恐れ入ります。どこぞの忍者と同じレベルなのでは?」 「あら、それを言うなら貴方だってそうでしょ?貴方こそどこぞの忍者並みよ。毎回、私を心配してここまで追いかけてくれるんですもの。」 姫は花のように愛らしく微笑んだ。夜寅はその笑みにドキッとし、目を逸らした。 「貴女は姫ですから。しかも他の城の殿方もほっとかないほど可愛らしい。」 「殿方がほっとかない…ね。」 姫は哀しそうにそっと呟いた。 「…夜寅、私ね結婚することになったの。」 「え…。」 「もちろん政略結婚よ。まあ、仕方がないことね。でも、その人は権力も武力も知力もあるの。ただ、女を物としか思ってないだけで。」 「それは……。」 「…ごめんなさいね、こんな話して。でも、もうここに来れなくなる、こんな自由じゃなくなると思うと…。」 「元気だしてください。気休めにもならないかもしれませんが。」 そう言って夜寅は琥珀糖を差し出した。 「ん…美味しいわね。ありがとう!あれ?なんだか眠k…?」 姫は突然倒れるように眠ってしまった。そんな姫を夜寅は受け止めた。 「忍びの里に伝わる即効性の睡眠薬。申し訳ないが眠ってもらう。…本来ならば拐ってしまいたいころなのだがな。」 夜寅の今回の任務はこの城主の暗殺。依頼してきたのは姫と結婚する予定の殿様だ。だが、夜寅は気が変わった。姫が不幸な目にあうくらいならと思ったのだ。少々自虐的な笑みを浮かべながら、夜寅は空を見上げた。 「姫、月が綺麗ですね。」 返事が来るわけがない。夜寅はわかっているのに呟いてしまった。そして宵闇に紛れて消えていった。 数日後。 姫は別の優しい殿と結婚することになり、その殿と町を歩いていた。元々結婚する予定だった殿様は殺されたらしい。姫が歩いていくのを見る人だかりで1人の男が呟いた。 「姫、ご結婚おめでとうございます。」 「!」 姫は急いでその言葉が聞こえた方を見たが、そこにはもう男の姿はなかった。 忍び。それは決して目立ってはいけない存在。本心を隠し黄昏時に現れ夜明け前に消えていく。どこかの町や城に潜んでいるかもしれない。それはわからない。ただ、わかるのは強く、家族も恋も友情も手にかける覚悟があるということだけだ。