救った笑顔は己の支えとなる
テレビのニュース番組にて、事件が報道された。電車に現れた殺人鬼を通学で電車を利用していた女子高生が捉えたという話。その女子高生は重傷を負ったが、すぐに呼ばれた救急車によって一命を取り留めたという事も流れていたそうだ、その女子高生は、近くにいた子供を庇った等という話もあり、とても賞賛されていた______ 数週間後。その事件が起きた市内にて。 ワタシ、紗彩______例の事件の女子高生が退院した数日後、久々に登校できる日。 「母さん、行ってくるね」 「紗彩……身体のほう、大丈夫なの?」 「平気平気!お医者さんも大丈夫だっていってんじゃん。じゃ、いってきまーす」 母親にそう言えば久々の制服を纏い家を出て、久々通学路を通る。 そして暫く歩いたところで通学に使う駅に着く。定期券を改札に通しホームに入れば、電車待ちの人が大勢いた。 やがて、電車がホームに到着する。自動にドアが開く。人波に押されながら車内へと入っていく。 そこで、強い不快感に襲われた。 『あの日』に生まれたトラウマが、痛みが、脳裏にフラッシュバックして。 人混みを避けながら、反射的にホームに戻り、その場でしゃがみ込んでしまった。 立ち直った頃には既に電車は発車してしまい、次の電車、また次の電車も同じ事を繰り返して。やがて、精神的に疲労してしまい、学校には体調不良と嘘を吐いて帰宅する。 それが、1週間続いた。 1週間後。今日も今日とて駅へ向かう。 母親はホントに心配してくれた。母親に申し訳無いし、悔しかった。たった数分の出来事だったのに、自分は人を救ったヒーローな筈なのに、当たり前にできた事が出来なくなったのだから。 あの日から日に日に重くなる足取りでホームに着く。電車が来るまでの数分間は、今や恐怖の時間になっていた。 しかし。今日はいつもとは違った。 「お母さん、あのお姉ちゃん……!」 「ほんとなの!? あの、すいません!!」 待ち時間。少年と女性の親子に声をかけられた。 「は、はい。えっと……どちら様ですか……?」 2人に身に覚えは無くて、首を傾げて尋ねる。 「もしかして、数週間前の電車の殺人未遂事件の時の女子高生の方ですか?」 「あ、はい。ワタシですけど……」 困惑しながら、質問は質問で返され、ワタシはそれに答える。 なんでそんな事を聞くだろうか。正直わからなかった。記者であればまだ納得がいくが。 「ホントですか……! 実は……貴方にずっとお礼が言いたかったんです」 「はい?」 先程の質問からどうしてこう繋がるのか。この人は何を言いたいのかさっぱり分からず、首を傾げる。すると、女性が突然お辞儀をしてきたのだ。 「……あの時、この子を庇ってくださり有難うございました!貴方のお陰で、この子は今生きてるんです。本当に、本当に、なんとお礼をしたらいいことか……ほら、アンタも!」 「お、お姉ちゃん、助けてくれてありがとうございます!!」 涙をポロポロと流す女性と、女性にお辞儀をさせられながらお礼を述べる少年。 ______思い出した。この少年は、あの日ワタシが庇った少年だ。 「あの時大怪我をしたそうで、お体の方は大丈夫でしょうか……!?すいません、うちのバカ息子のせいで、貴方に大怪我を……!」 「だ、大丈夫ですから、お顔をあげてください!息子さんは何も悪くありませんから……!それと……」 必死に謝る女性に、罪悪感を覚えて顔をあげてもらうように言うと、彼女はそっと顔をあげた。ワタシはある事が気になって、少年に近づく。 「……キミ、怪我は無かった?」 「うん!お姉ちゃんのお陰だよ!」 ワタシの問いかけに、元気に答える少年。それを聞いて、とても嬉しかった。 「そっか。良かった…………」 そう言って、少年の頭を撫でると、少年は笑った。その笑顔に、ワタシは救われた気がした。 「ねぇ。お姉ちゃんのお願い、1つ聞いてくれないかな?」 あの時ワタシがいなかったら、きっとこの子もここには居ないのかもしれない。 「うん!」 誰でもなくワタシが、ワタシが少年の笑顔を救ったんだ。 「今度、誰か困ってる人がいたら、あの日のワタシみたいに助けてあけでね」 そう思うと、不思議と重くなった心が一気に軽くなって。 「わかった!約束する!」 「ありがとう」 ______ジブンが誇らしくなった。 「あ、電車、来たみたいだし乗ろっか。 お母さんも乗りますよー!」 ホームに響く駅内放送の声、電車の扉が開く音。人波に押され、親子と共に乗車する。 けれど。不快感は全くしなかった。 だって……今のワタシには、笑顔という支えがあるから。今ならきっとなんだって出来るから____________