記憶のカケラの眠る島
そうです。ここは記憶のカケラの眠る島。過去の記憶が実態を伴って現れる島です。だから、過去の自分に会いに訪れてくれる方もいらして。 宿帳にご記入を。 幽霊の類じゃありません。生きている人の記憶が実態を伴って。でも、記憶は薄れるものなので、だんだん、見えなくなるんです。もちろん、本人は波長が合うので見えますよ。過去の自分には絶対に会えます。 …ああ、島はもう周って。あの崖の方は行きましたか?…行ったんですね、会えました? 理知的なイケメンさんに。事実、有名私大を卒業したみたいです。現在は役所で働いていると。 彼ね、あの場所がお気に入りらしくて。海が一望出来るからって。 ああ、洞窟? 一人いますよ。スタイルが良い人が。 誰かがあそこで泣いてると、そっと離れて一人にしてあげるんです。きっと、彼は繊細なんでしょうね。優しいですよ。 入り江のところにも一人、いますよ。聞きましたか?彼の歌声。 すごい綺麗な歌声で、風向きによってはここまで聞こえます。伸びのある歌声で、私、あの人の歌声が好きなんです。疲れてる時は癒されます。低いメロディーの歌でも、アップテンポの歌でも彼の歌声は魅力を失いません。むしろ、歌の曲調やメロディー、種類によって違った魅力があって。 なんか、笑いを押し殺してますね、あなた。 木のあるところ?少し奥まったところですね? いますね、イケメンさんが。 前ね、若くて可愛い女の子があの人に恋をしちゃって。この島に住みたいって言って親御さんを困らせてました。 罪ですよね、イケメンって。 なに、笑ってるんですか。 ああ、浜辺にも一人いますね。 子供みたいでしょ。よく笑うんですよ。すっごく楽しそうに。 彼もまた歌を歌うのが好きみたいでね。踊るのも好きだと思います。踊りも上手でね、入り江の彼の歌に乗って踊ると芸術品のようです。 たまに五人で揃ってますよ。 歌って踊って、本当に楽しそうで。綺麗なハーモニーを聞かせてくれます。 きっと、楽しかったんでしょうね。五人でいるときの強い記憶がこの島に残ってるんでしょう。 だから、もし、五人でいるところを見かけてもそっとしておいてあげてくださいね。 …ん?皆さん、似てますね。 あなたは浜辺の彼に。あなたは崖の彼。あなたは木の彼に。あなたは入り江の彼。あなたは洞窟の彼に。 …やっぱり。皆さん、そうですよね?五人の彼ですよね? 過去の自分に会いに来たんですね。三日間の滞在ということで、有意義に過ごせると良いですね。