期待とは何か
「期待って言葉は奥が深いよ」 僕はその言葉から始めた。笑顔で。笑顔は得意だ。真顔を忘れてしまうほどに。 実結(みゆ)は瞬太郎(しゅんたろう)に対してこう言った。瞬太郎って凄いね。今度の謎も瞬く間に解いちゃうなんて。次も謎に直面した時には期待しちゃおうかな。私にも謎は解けると思うんだけど。 実結が首を傾げる。高二にしては小柄だし、容姿も可愛いの部類に入るからなかなか絵になる。 「自分に自信がある時は期待なんて言葉を出しちゃいけない」 生徒会の人たちが忙しなく体育祭の後片付けに追われている。その様子を横目で見ながら僕は続けた。 「期待っていう言葉は時間的にとか資力的にとか能力的にとか及ばない諦めが期待になるんだよ。井伊直弼や徳川家定が徳川家茂を将軍にと押した時、多分、まだ、倒幕派に勝てると思ってたのかな。もしかしたら、慶喜よりも、まだ幼かった家茂の方が将軍として活躍できると思っていたのかもしれない。あの時、家茂に付いた人たちは慶喜より家茂に期待できると思っていたんだろうね。期待ってのははそうせざるを得ないどうしようもなさを含んでなきゃどうにも空々しいよ。 最近の若者の言葉の乱れは深刻だね。意味が分からない言葉を周りの子達は使ってるし、なになにしか勝たんっていうのは言葉としておかしい。国語の教育を早急に見直すべきだよ。 期待っていうのは例えば……」 なんか、実結が相づちを打たなかったおかげで独白っぽくなってしまった。だが、実結は素晴らしい。黙って聞いていたかと思えばこう言った。 「誠(まこと)ちゃんが瞬太郎にやっていたようなの?」 僕は謎を解くために運動場を、校内を走り回った。 ブラーヴォ。流石だよ、実結。僕は拍手する。 「その通り。なんで分かったの?」 「マコちゃんの顔を見てれば分かる」 そんなに顔に出やすいタイプかな。 「マコちゃんはシュンに勝ちたかったの?」 聞き逃すことも出来た。でも、聞き捨てならない。そうじゃない。そんなつもりは全然なかった。ただ……。 「微妙な男心ってやつだよ。こればっかりは実結にも分かるまい」 実結の方が少し動いた。そんなことないと言っているように聞こえた。 「考えてみれば最初から分かってた。もっとはっきり胸に刻んでおけば無駄な動きをせずに済んだ」 こいつって問う代わりに実結は首を再び傾げた。 僕ははっきりと言った。これは誰に聞かれても恥ずかしくない、当然のことなんだから。 「雑学マニアは結論を出せないんだ」 実結が悲しそうに笑った。