藍と金と灰
夜中の1時半。カーテンを少しだけ開いて窓の外をのぞく。藍と金のささやかなコントラストを確認。やった。ベッドを抜け出して廊下に出る。それからお母さんの寝室をこっそりのぞく。相変わらずぐっすり寝ている。お父さんはいない。昔病気で亡くなった。 普段着に着替えて外に出る。このマンションには、月が見られる階段がある。きれいに晴れて月が出ている夜中には、きまって「彼女」がそこにいる。 「こんばんは」彼女の姿が月光に照らされる。「彼女」は私の唯一の友達だ。ミステリアスで、とても美しい。彼女の髪は短くて灰色だ。目も一緒。服は灰色のワンピースで、靴は履いていない。 「今日は何か嫌なことでもあったの?」「なんで分かるの?」尋ねると、彼女は静かにほほえむ。 彼女に今日の愚痴を話す。彼女は黙って聞く。それだけでいい。彼女に聞いてもらえれば、それで、いい。 彼女と出会ったきっかけは、ものすごく嫌なことがあって、夜中にそれを思い出して、やけになって階段に来たことだった。びっくりした。髪も目も特別な色で、裸足だし。なんでこんなところにいるのか不思議だった。彼女は私に悲しいことがあるなら言ってみて、と言った。初対面なのにすらすらと話せた。 「ねえ」「何?」「あなたは何者なの?」この質問をするのは何回目だろう。彼女は、「妖精」と答えた。「前は幽霊って言ってたよね?その前は天使だっけ」「そうだよ」「本当は何者なの?」「内緒…」しまった。灰色の目が潤む。彼女はこの話をすると、いつも悲しそうな顔をする。 ぼかしたいことは、きっと誰もが持っている。もちろん、彼女にも。私はそれを人一倍持っている。理由はうまく説明できない。理屈じゃない。でも、それを溶かしてくれるのが彼女だ。 「もうそろそろ、戻ったら?」「そうだね。じゃあまたね。もうすぐ梅雨だから、すぐには来れないかも」「待ってるよ」 彼女の髪が、風でさらさらと揺れている。優しい目が私を見つめる。綺麗な灰色。 月が、階段を照らしている。明るいのに、ぼんやりしている。あいまいな金色。 夜空が、私たちを飲み込む。広大で、果てしない。深い藍色。 ゆっくりと、交わる。