初短編
「…でご用件は」悪魔と名乗る少年は、淡々とした口調で言った。 「私のがんを直してほしいの」由衣は言った。「そうですか。でも直すことは無理です。まあ1日元気にさせることはできますが」少年は驚く様子もなく言った。「それでいいからしてほしいの」悪魔はふぅといきを出し、代償はしっかりもらいますよ、と続けた。 由衣は末期がんだった。医師からも余命わずかと言われている。でも最後にみたい景色があった。 翌日の検査で由衣のがんはすっかり治っていた。 由衣は公園に急いだ。 公園のひまわりは満開だった。はしゃぐ由衣を見て少年は目を細めた。 はい、と由衣が差し出したのは、ひまわりの花束だった。どうして俺に?… 今日はありがとう、 と由衣が言う。名前はなんていうの… 「ああまだいってなかったな。俺の名前は大翔だ」それから2人はベンチに座り旧友のようにしゃべった。 「今日は本当にありがとう」別れる時に少年は今回だけだからなとつぶやいた。 由衣の病気は日増しによくなっていき、外にも出られるようになった。公園に出かけ、ベンチに座る。なぜだろう病院から出て公園に来たのは初めてなのに、誰かときたような気がする。このベンチに誰かと座った気がする。なんだろうどうしてだろう。懸命に記憶をたどってぼんやり思い出したのはハルトという文字。ハルト… 由衣はつぶやくと泣いてしまった。由衣の近くにとまっていた蝶が名残惜しげに夕方のそらに飛んでいった。