あるねこの1日
ゆらり。 しっぽをゆらした。 じいさんは新聞の隙間から顔をあげた。 「いってらっしゃい。」 もう一度しっぽをゆらし、庭にトン、と降りた。 庭には大きな水たまりがある。そこには赤かったり、黒かったりする魚が動いている。キンギョという。ひらり、ひらりと泳ぐ姿に思わず前足があがるが、じいさんが大切そうに見ているのを思い出し、グッと我慢する。 キンギョから苦心の末目を逸らし、縁を気をつけて歩いて、茂みに小さくあいた穴を通る。チクチクと当たる葉が心地いい。 穴を通り抜けたら、隣のおくさんの家の塀に跳びのる。少し高さがあるので、ゆっくり距離を測ってから跳び乗る。ーいつもお尻をフリフリしてしまうのがカッコ悪いけどートスン、と音を立てて跳び乗り、家々の隙間の奥に進む。 空から降る影に身を忍ばせながら、香る花のにおいを感じて鼻をヒクヒクさせる。いい匂いだ。 歩いた先の広場には、仲間がもう集まってた。いつもの黒い毛並みのあいつに鼻先をコツンと当てて挨拶をする。そこからいつものように互いの毛並みを舐めて綺麗にしはじめた。 ー元気だったか。 ー元気だよ。 ーじいさん、今年はバテてないか。 ーバリバリキュウリ食べてたよ。 ーじゃあ大丈夫だな。 ーそっちはどうなの。 ーいつも通りだよ。 ーそりゃあよかった。 ーそういえばパン屋のあいつ、子供できたらしい。 ーへぇ、そりゃめでたい。今度じいさんの焼き立てのさんまでも持ってくか。 ひと通り話し終えた後、誰からともなくその場を去っていく。元の道を戻っていく。 うちの隣の奥さんの家の塀までくると、もう一度、下へ降りた。今度は降りるだけなので、距離は測らない。すると、 「わぁ!ねこさんだぁ!」 という甲高い声が聞こえ、しっぽに何かが触れる感覚があった。突然のことに驚き、体中の毛を立てて、 「シャーーー!フッフーー!」 と声を出して一瞬振り返って、すぐに茂みに入った。後ろから大きな泣き声がしたが、悪いのはあっちだから気にしない気にしない。 いつもの穴ではない場所から入ったためか、茂みからなかなか出られない。おまけにまだ収まらない毛の膨らみが、枝に引っかかる。 「ニャオーン」 急に心細くなり、声を出してしまった。 「ミケや、大丈夫かい。」 聴きなれた声が聞こえると、大きな手が体を包み込み、茂みから出した。じいさんだった。 「やれやれ、気をつけるんだぞ。」 ゆっくりとおろされた。少し恥ずかしくなって、ぺろりと一回背中を舐めて誤魔化す。じいさんはニコニコと笑ってたので、多分誤魔化せていないが。 出来るだけ何もなかったかのように装って縁側にピョンと乗った。じいさんの読んでいた新聞のカサカサ音を右に聞きながら、いつもの定位置についた。 「本当にミケは、ばあさんの気に入っていたその座布団が好きじゃのう。」 「ンニャ」 短く返事をする。 座布団からは、自分の匂いと、ひだまりの匂いがした。 ある、ねこの一日。
みんなの答え
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★★★★☆
小説拝見させて頂きました。 とても素敵な小説ですね。 読んでいてほっこりしました。 詳しい描写がされているところが 素晴らしいと思います。 「本当にミケは、 ばあさんの気に入っていた その座布団が好きじゃのう。」 というセリフから、ばあさんは お亡くなりになられたのかなと想像が つきました。違っていましたら御免なさい。 もしかしたらじいさんはばあさんが 亡くなった寂しさから猫を飼ったのでしょうか。 色々と想像ができて面白いです。 素敵な小説を書いてくれて有難う御座います。
猫ちゃんかわいい~!!
猫ちゃん可愛いです… 猫の視点から物語を書く発想が新しくて面白いなと思いました!
猫が可愛い~!
ほのぼのとした小説良いですね♪猫ちゃんが可愛すぎです!表現の仕方も良くて読みやすかったです♪ありがとうございました。次の小説も楽しみに待ってます♪
猫好きにはたまりません!かわいい~
金魚を捕まえたい衝動を必死に抑える猫ちゃん可愛すぎます!