油絵と追憶
「また、ちっとも進んでない。」 幼い声が僕に話しかける。 白いワンピースを着た女の子だ。 「僕に会ったことがあるの?」 「うん。昨日も、昨日の昨日も会ったよ。」 「昨日も一昨日も、同じ絵だった?」 「うん。そこに描くものを悩んでるって言ってた。」 僕は納得した。確かに、そこにはたくさん描き直した後があるからだ。 「油絵はね、上から色々描けるんだ。」 話しだしてから、しまった、と思った。 昨日も一昨日も、同じ話をしていたのかもしれない。 しかし、女の子は興味深そうな顔をしていた。目を輝かせている。 それを見て、安心して話を続けた。 「この絵もね、ほら、今は海が描いてあるだろ?でも、元々森の絵を描いていたんだ。僕が唯一覚えていることさ。」 「森が海になるの?」 「そうさ。僕は油絵で、昨日とか、一昨日の自分とお話するんだ。」 「日記みたい。」 「日記とは違うのさ。読み返さないから。」 「ふーん。」 女の子は難しそうな顔をしてみせた。 女の子が帰ってから、件の場所に白いワンピースの女の子を描いた。 我ながらなかなかいい絵が描けたと思う。 明日の自分がこれを見たら、きっと感動し、そして安堵することだろう。 そのときを、この絵の完成としよう。 ━━━━━━━━━━━━━━ 彼が病院に戻ったことを確認し、彼女は茂みからひょいと出てきた。 そして、絵に描かれた白いワンピースの女の子を塗りつぶし、上から海を描く。 彼女は描きながら、ある日の彼との話を思い出していた。 彼は重病であった。 一度寝てしまえば、その日の記憶は次の日にはなくなってしまう。 余命もとうに過ぎていた。 ある日の彼は言った。 「この絵が完成したら、安心して死ねる。」 ━━━━━━━━━━━━━━ 次の日、彼女は彼にこう言った。 「また、ちっとも進んでない。」 明日も明後日も、きっと進まない。 進まないで。 そう、願いを込めて。 ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
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視点変更が神がかってる…!
定義です。よろしくお願いします。 army & onceさんのコメントを見て、『恋と贄』も読んできたのですが、どちらもすごいですね…! 特に、どちらも視点変更の使い方が神がかってると思いました。 『恋と贄』では最初は男の子視点で伏線を作り、次は女の子視点で一気に回収。 この『油絵と追憶』では、最初に男の子視点で謎を作り、次は三人称で回収。ここが三人称であることで、女の子の心を客観的に映し出していて、使い分けがすごいなと思いました。 この、読者が乗り移る人の変更が2つの話の凄さを強めていると思います。 素敵な物語をありがとうございます! 次も待ってます!
うわぁお、
アンニョンハセヨ、army & once ニダ! うわぁ、凄いですね…!! Hideさんの前回の作品、“ 恋と贄 “ も読ませて頂きましたが、今回もとてもしんみりと来る作品でした! まず、タイトルからHideさんのセンスを感じますね。 主人公の男の子は本当に絵を描くのが好きなんだろうなぁと思いましたし、このまま絵が完成しないで、死なないで欲しいなとも思いました。「僕に会ったことがあるの?」この言葉の意味(意図)は、男の子がそういう病気だったからなんですね。納得しました。 そして、女の子が絵の中の白いワンピースの子を消したのは、男の子の絵がこのまま完成しないで、死んで欲しくないという想いから来ているものだと私は思いました。男の子の絵が完成しないように、きっと、この日だけじゃなくてその前の日も明日も同じ行動をするんでしょうね。彼が描いた白いワンピースの子を見て完成だと思わないように。 深読みすればするほど、面白いですね! 私と同い年とは思えないぐらい(中3の方だったらすみません)、本当に上手でした!! 次の作品も待ってますね!!
引き込まれます…!
世界観の説明や登場人物の紹介が一切ないのに、物語の風景が浮かび上がってきて、こんなに短いのに引き込まれます…! 裏にあるものは暗いけど、優しい気持ちになるお話ですね。 最初の謎だったところの回収、さらに落としも綺麗…。
素敵なお話!
こんにちは。睡です・・・! すごいですね、この小説・・・! 女の子は男の子を死なせたくないから、絵に手を加えてるんですね・・・ また、ちっとも進んでない。何気ないこの言葉に含まれた重みが・・・重みがっ・・・!! 私もこんな文が書けるようになりたいものです・・・あなたの事、応援していますね!