知らないままで。
午後5時30分。 昼頃、あんなに青かった空は、霞んだような淡い色に変わっていた。 遠くを見れば、空の端はピンクやオレンジになっていたり。上を見上げれば、雲もピンクになっていたり。 この気持ちを表すには。 「ノスタルジックって言えばいいかなあ?」 私が空に響き渡るように言うと、「変に難しいこと言うよね、あんた」と後ろから小さく聞こえた。 鈴のような声。振り返れば、声の主は柵の内側にいて、細々とした小さな花を手に抱いている。 若葉ちゃん。私の友達。 「だってピッタリじゃない?ほら、空綺麗でしょ?」 若葉ちゃんは「そりゃ綺麗だけど」と言って、音もたてずにゆっくりと立った。立った若葉ちゃんは、私よりほんの少し身長が高い。 そのまま若葉ちゃんは軽々と柵を越えた。 静かな空気が漂う中、若葉ちゃんの手の花が舞う。 「そっか……もう、さよならしなきゃ」 私は若葉ちゃんの手を握った。白くて、今にも消えそうで。 「じゃあ、せーので行こう」 このまま。いつまでもこのままで。 「せーのっ」 世界の凄惨さなんて知らないまま。 この手の感触と、一瞬は忘れないまま。 まるで花弁のように、私と若葉ちゃんは夕映に染まった。