絵に描くものは ~湖屋敷の夏物語~
パラリ。 スケッチブックをめくる。 私の趣味は絵を描くことだ。 何週間もかけて一枚の絵を仕上げる。 『藤波朱鳥』と裏表紙に油性ペンで書かれた、真新しいスケッチブックの1ページ目には何を描こう。 私はスケッチブックと鉛筆を持って家を出た。 私が今いるこの場所は、とても自然豊かだ。 本当は湿地の風景を描きたいのだが、あいにく此処にはない。 しばらく歩き、森の中にひっそりと建つ古いお屋敷を描くことにした。 私はお屋敷の前の湖も視野に入れられる湖の前の岩に座り、スケッチブックの1ページ目に鉛筆を走らせた。 夏の日差しが木々の間から木漏れ日となって差し込んでくる。 その日差しを受けながら、私は好きな曲を脳内再生して絵を描く。 サラサラ、と鉛筆がスケッチブック上を駆ける音がする。 この音が、私は好きだ。 それから一時間が経った。 私は湖とお屋敷の入り口辺りを白黒で描きあげた。 「ふぅ」 「何を書いてるの?」 「!?」 慌てて振り返ると、私と同い年くらいの長い青髪の美少女が立っていた。 薄茶のワンピース姿で。 「…だ、誰?」 「私は、桜。このお屋敷の住人。」 その桜…さんは、心なしか少し妖しげな雰囲気を見に纏っていた。 「私は、藤波、朱鳥…。」 「あすかって言うのね。綺麗な名前。 私のことは桜って呼んで」 「ありがとう、わ、私あなたの住むお屋敷の絵を描いているの」 そう言うと、桜は顔を輝かせた。 「まぁ、嬉しい!朱鳥は絵が上手いのね」 「そんなことないよ」 不思議だ。 私は昔受けたいじめのせいですっかり同い年くらいの女の子と話すのは苦手になっていたのに、璃狐とは楽しく話せる気がする。 今は、少しぎこちないけれど。 「ねぇ、朱鳥。今は夏休みよね?」 「そうだけど…」 「なら、また会いましょう! 私、もう戻らないといけないの」 「…そうなんだ。」 私はずっと動かしていた鉛筆を止めた。 ふいに、止まってしまったのだ。 「じゃあ、また…ね」 「ふふ、絵、頑張ってね」 「うん」 そして桜はお屋敷の中に消えていった。 すっかりもう誰も住んでいないと思っていたのに、まだ住んでいたんだ。 私はそれからも一時間…日が暮れるまでずっと絵を描いていた。 翌日。 私は胸を踊らせてお屋敷の前に向かった。 …そこには、もう桜がいた。 「桜!」 「昨日ぶりね、朱鳥」 「うん」 桜と話していると、不思議と鉛筆が進んだ。 湖が夕日を反射してキラキラと光り始めるまで、私たちはずっと一緒にいた。 それが、私の中で夏休みの日々の楽しみになっていた。 とある日は絵を描かずに湖で遊んだり。 森を散策したり。 後、湖の周りを走って競走もした。 やがて、私は数週間かけて鉛筆での下書きを終えた。 それから、私はそのことを桜に伝える為にいつも通り湖の前へ向かった。 そこには、ぽつんと桜が立っていた。 「桜」 「朱鳥!あの…私、話さなければいけないことがあるの」 「?」 桜は思い詰めた表情で続けた。 「私は、あなたとは違うの。私はもう生きていない…」 「は!?」 桜はどうしたのだろう? 「私はね、数十年前にこのお屋敷で病死した子供。死ぬ前までにこのお屋敷の絵を描きあげたかったのに描き上げられなかった女の子…」 「さ、桜!?」 そして私は桜が少し透けていることに気がついた。 「お屋敷はもうすぐで壊される。だから私もいなくならないといけないの」 「早すぎるよ、まだ、出会って数週間じゃない!」 こんなの、こんなの急すぎる。 桜が幽霊なんて。 「桜!!」 「だからね…、朱鳥にお願いがあるの。お屋敷が壊される前に、絵を仕上げて…」 「この絵を?」 桜は涙目でうなずいた。 「私はお屋敷の絵を描きあげたかった。 でも、もう不可能だから…あなたの絵が見たいの」 「桜…。 分かったよ、私は描きあげてみせる」 そういうと、桜は弾ける様に笑った。 その緑の目からは透明な水が溢れていたが。 私には桜が消えてしまうということが受けいれられなかった。 そして日々絵を描き、残るは湖屋敷の門の色。 私はそれを、桜に頼んだ。 二人で描きあげたかったのだ。 それを桜は受け入れ、綺麗に赤色を塗ってくれた。 やがて、とうとう絵は完成した。 それと同時に桜は…。 「桜…!!」 「朱鳥、本当にありがとう…!!」 という言葉を残して消えてしまった。 その翌日に、工事により湖屋敷は崩れて消えた。 その様子を目の当たりにした後、私はずっと湖を眺めていた。 十年後。 今でも私はあの絵を大切に持ち、桜の事を忘れないでいる。 終
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ステキ!!
上手く言えないけど、目に写る景色、耳に入り込む音、桜と朱鳥のセリフもすごくステキです!! なんか、思い出のマーニーみたいで好き!
うおぉぉぉ!泣けるぅぅぅ!
感動しますぅぅぅ! もっと書いてほしいです!
状況の描写がすごく好きです。はい。
文章がとても綺麗です…情景描写がすごく上手だなと思いました。 個人的には、「サラサラ、と鉛筆がスケッチブック上を駆ける音がする。」というところがすごく好きです!私もその音好きなので(笑) ひと夏の不思議で切ない物語、というのもものすごく好きです。映像化してもいいのでは…?と思いました。 私に語彙力がないためこの思いが伝わり切らずもどかしいものがあります。。でも、めっちゃいい話だし爽やかでかっこいい…。
桜ちゃ…
綺麗な情景の友情もの、久しぶりに読みました! 幽霊かな…って思ってはいたものの、そっかぁ…そうだったんですね…。 うわぁ!?そうなの!?みたいなのは無いけれど、描写がとっても綺麗で、読んでいてすごく清々しい気持ちになりました。 書いてくれてありがとうございました!水瓜さんの次のお話を楽しみにしてます!