あなたとなら
私はあんず。 今は月永先輩にお弁当を届けに行くところ。 「先輩」 「あんず!今忙しいんだ!あんずが食べさせて!」 先輩は口をあけた。 「委員会で忙しいので先輩とお昼をご一緒することは出来ません」 めちゃくちゃな先輩だけど、作曲の腕は本物。私もいつか教わりたいと思ってる。 「へー…そうだ!」 先輩は思いついたように声をあげた。 「駆け落ちしよう!」 …は? * * * * * 『あんず?委員会は?』 委員長からだ。 「すみません…委員会は休ませてください…」 『分かった…なんか騒がしいね?』 「今校外にいます…月永先輩と一緒です…連れ出されて…」 『あー、災難だったね』 「すみません…」 『いいよ!気にしなくて!大丈夫?』 「大丈夫です」 『良かった、気をつけてね!』 「ありがとうございます」 会話を終えて電話を切る。 「あんず!駅ついたぞ!」 先輩が無駄に大きな声で言う。 12時45分。午後の授業は間に合わない。 「あんず、弁当もってきた?」 「はい…でも多分中身ぐちゃぐちゃですよ」 「じゃあ1から7で好きな数字選んで!」 降りる駅を決めるのか? 「では1で」 「1番のりばへGO☆」 違った。 * * * * * 「ぐちゃぐちゃですね」 電車の中。 先輩は昼食を食べているけどお弁当の中身はめちゃくちゃ。 「大丈夫☆新しい組み合わせにこそ奇跡が起こる、この弁当だけで1曲書ける!」 注目されてる…平日の昼だし仕方ないか。 「これ美味いっ、2つあるから2番のりばで乗り換え!」 「…分かりました」 * * * * * 「わはは!海だぁ☆」 目の前には夕焼けに焼かれた海が広がっている。 「海なら学校の近くにあるのでは?」 「学校の海は見飽きた!ロマンがない!」 「そうですか」 「自然の偉大さを感じる☆」 授業が終わる時間だ。 「あんず!こっち来いよ海だぞ☆」 先輩は自分の足を水につけて呼びかけた。 「嫌です、着替え持ってませんし」 鞄からスマホを出しながら返す。 「あんず!」 「はい?」 あれ?私が持っていたはずのスマホが手元から消え、先輩の手元にあった。 次の瞬間。 「やっ!」 え?海に何かが落ちる音がした。 「?!」 私は海へ駆け出した。 「おっと、靴を脱いでから入ろうね☆」 先輩は海へ入ろうとする私を止めた。 「なんてことするんですか…」 委員会の資料、イベントの計画書。最後にバックアップしたのはこの間の写メ。 「嘘だよ☆」 先輩は投げたはずのスマホを私に差し出した。 「え…じゃあ海に落ちたのは…」 「俺のスマホでした☆」 ピースをして言う。 「大変っ…探さないと…」 「いーよ、そんなものなくたって」 「よくないです!右は私が、先輩は左を探してください」 指をさしながら先輩に言う。 「いーよ、壊れてるだろうし」 「干せば使えるかもしれません!」 「俺たちなんでこのシチュでこんな地味な作業してるかなー?」 「先輩がスマホを投げたからです」 「見ろ、誰も俺たちを知らない場所で!2人きり!」 「釣りしてる人いますけど」 「ロマンの宝庫じゃないか…!」 スルーか。 「海峡まで逃げた恋人!黄金の水面に潮騒のメモリー!なんでお前はあんずなの?まさにオペラの始まり…!」 「ここ海峡じゃありませんし、恋人じゃないです」 「うん、恋人じゃない…あんず」 「はい」 「付き合ってる奴いるか?」 「いません」 「じゃあ誰とも恋人にならないで、今のままでいて」 「なんでですか?」 「まだ答えを出さないで、俺に付き合ってて」 「いつまでですか?」 「ずっとは酷いか?」 「酷いですね」 「じゃあ俺が卒業するまで!」 「分かりました、でも条件があります」 私は先輩に頭を下げる。 「ん?」 「曲作りを教えてください」 「そんなことか!いいぞ!約束!」 「約束です…あ、スマホ見つかっ…」 やばい。転ぶ。 「!」 反射的に目を瞑った私の目の前には先輩がいた。転びそうになった私を抱きとめてくれたのだ。制服は濡れてしまったけど。 「ありがとうございます…」 「こうしてると、ほんとに駆け落ちしようと思っちゃうんだよなー」 「…」 「黄昏の海に抱き合って入水する2人!絵になるね曲になるね!これは名曲の予感!俺って天才?!題名は海峡心中!」 「心中…」 「?」 「私、先輩となら死んでもいいです」 「へ?」 「なんて…どうです?名曲書けそうですか?」 先輩にスマホを渡す。 「…あはは!最高!いいね、もう1球!」 「…月が綺麗ですね」 「0点!月まだ出てない!」 「厳しいですね、では王道で行きます、先輩が好きです」 「手抜いたな?俺も好きだぞ☆」 「ずっとこうしていたかった」 「もう離さないからな」 「あなたが1番です」 「あはは!」 「なんですか?」 「俺も一番愛してるぞ☆」