通り抜ける世界で、君と
キーンコーンカーンコーン…… 「じゃあねー」 「また明日ー」 チャイムが鳴るなり、クラスメートがホッとしたような笑顔で教室を出ていく。中には部活に行く人や、教室に残っておしゃべりをする生徒もいた。 私・神谷沙和(かみや さわ)は、そんな教室を見回して小さく息をついた。 「はぁ……」 すごく緊張するなぁ……。 でも、今日必ず言うって決めたんだから。逃げるなんてできない。 私は意を決して、カバンを持って2年5組を出ようとした。 その時、教室に残っていた人たちの中から、わっと声が上がった。チラッと見やると、男女数人グループが爆笑しながらお互いの肩を叩いたりしている。 それを見たら、ず~んと心が沈む感じがした。 (ああ……。みんな人に触られて、うらやましいなあ) ――そう。実は私には『人に触れる・触られることができない』未知の障害がある。 それは、人に触ったら皮膚かなにかが炎症を起こすから触っちゃいけない、という事情ではない。……人に触れられても、『通り抜けてしまう』のだ。 いうなら、実体のある幽霊って感じ。見れても触ることはできない。人以外の物なら、触れるんだけどね。本当にやっかいな障害だ。 そして、私の障害のことは、学校では先生など必要最低限の人しか知らない。だから私は、触られることのないように人とは距離をとっている。万が一バレたら……大変なことになりそうだから。 それでも、唯一私の秘密を知っている人がいるんだ。それは――、 「あ、沙和ー」 靴を履き替えた時、ちょうど彼の声がかかった。幼なじみの南悠人(みなみ ゆうと)だ。そう……私の障害を知っている人。 ドキッとした。親の心配で、部活がない日は私と悠人は一緒に帰ることになっている。周りの目がとても恥ずかしいけれど、正直――嬉しいなぁって思っている。 だって私は、悠人が『好き』だから。幼なじみとしてじゃなく、一人の『男の子』として。 で……これから悠人に、告白しようと思っているの。だから教室で息をついたわけだ。 ああ、すっごく緊張する……。そんな私の思いを知らない悠人は、のんきな顔で帰り道を歩いている。ま、ますますドキドキしてきた。でも、決めたんだ。告白するって! 「あ、あのさ、悠人」 立ち止まってぎこちなく声をかけると、「ん?」と悠人が私を見た。心臓がドクンと跳ねる。 「あ、あのね、私――」 言わなきゃ。好きだって! 「私――」 悠人は靜かに、私の言葉を待ってくれている。私は意を決して、バッと頭を下げた。 「私、悠人が好き……!!」 い、言ってしまった……!! 怖くて怖くて、ギュッと目をつぶる。心臓がこれでもかというほどに暴れている。「え――」と悠人の声が漏れた。 な、なに――? もしかして私、フラれる――っ? 身体が芯まで冷たくなると、ガッと乱暴に頭を上げられた。私は目を開く。そこには、悠人のどアップがあった。 私は息を呑む……とそこで、(あれ?)と気付いた。 悠人、通り抜けるはずの私に触れている……? 「……なるほど。沙和が触れるようになる条件は、『両想いになること』だったんだな」 びっくりしていると悠人が言い、私はさらに驚く。 りょ、両想いって……! すると、悠人が顔を赤らめて言った。 「――俺も好きだよ。沙和」 「えっ!?」 驚きのあまり、私は悠人から離れた。でも悠人は、そっと私の手を取って。 「俺たち、両想いになったから、沙和に触ることができるよ」 えっ、え……!! 誰かに触られるのって、こんな感覚なんだ。 くすぐったくて、やわらかくて、あたたかい――。 こんな感覚を得られるのは、私たちが、両想いになったから――。 「じゃ、帰ろっか」 ニコッと笑って、悠人が私の手を引く。 「――うん!」 私も笑顔でそう返して、彼の手をぎゅうっと握った。 ――END――
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無題
文章の途中で「障害」というワードが出てきて少し驚きましたが最期はHappy Endで良かったです!