春の名残り
春の名残りの梅がわずかに枝を飾っていた。 枝と同じく、頭頂部が寂しいじいちゃんと優しくて礼儀正しい菜穂子(なほこ)の話は弾み、すっかり蚊帳の外に置かれた俺は無作法なことながら外を眺めていた。 じいちゃんがニコニコと朗らかに笑っている様子からは日頃の素気無い様子は想像出来ない。 菜穂子の度胸には感嘆する。 仮にもここはここら辺では有名な名家、東宮(とうみや)家。ザ・和風な感じのする家に入るのは度胸と勇気がいることだろう。いくら、地域の歴史について調べるという用事があっても。 やがて、じいちゃんが公民館に行く時間が来たようで話をおしまいにし、家から出た。 じいちゃんを俺と見送った菜穂子は俺に言った。 「いいおじいさんだね。一緒にいて楽しそう」 「そこまで楽しくないよ」 菜穂子が家の中を見たいと言ったので家の中を案内する。 リビングを見せると、 「やっぱり広いね。こういう家って掃除とか大変じゃない?」 俺は首を振る。 「ううん。お手伝いさんがいるから、やってもらってる」 菜穂子が目を見開いた。 「え。やっぱり名家は名家だ」 そこまで名家じゃないんだけど。 最後は庭だった。 梅を見て嬉しそうに笑う。それから、俺を見た。 「ねえ、私、蓮(れん)くんが好きなの」 それは俺に大きなショックをもたらした。 「そ、そう」 一生懸命に取り繕う。 「大和(やまと)くんは?好きな人、いる?」 「……いるよ」 「なら、将来、その人と結婚かな?高校生じゃまだ早いか。そういうことを考えるのは」 そう笑って、菜穂子は梅を興味深そうに眺める。 俺は梅から目を逸らした。 ねえ、菜穂子。俺、君が好きなんだよ。 よく君のことを好きな人に自分が好きな人のことを話せるね。 傷つくよ。 やがて、菜穂子が家を辞去する時間が来た。 菜穂子を家まで送り届け、自分の家に着く。 思いを吐き出したくなった。どうせ、失恋なんだから告白する意味は無いし。 せっかくだから外国語で言ってみようかな。 これなら誰に聞かれてもすぐに意味を把握するのは難しいだろう。 どれで言おう。英語ならI love you.すぐに分かる。月が綺麗ですね?迂遠すぎる。なら、スペイン語かな。 「To me gustas」 あなたが好きです。