学年一の秀才の話
こういう時、頭の良い人は口が立って便利だな、と思った。 「寂しい」なんて微塵も思ってないくせに。 僕は今年、「そいつ」と初めて同じクラスになった。 この中学校に入学して早くも二年が経つが、一年生の時からそいつは、秀才として有名だった。 定期テストはいつも一位。勉強も運動もできるそいつに、最初はみんな興味津々だった。 「放課後遊びに行こうぜ」とか「なんのテレビ好きなの?」とか、まるで突如現れた転校生に群がるみたいに、みんなはそいつに質問していた。が、そいつの返事はいつも素っ気ない。遊びに誘っても「塾がある」の一言だけで、誘ってくれたことに感謝もしない。テレビのことを訊いても、音楽のことを訊いても、「興味ない」で片付けてしまう。 「面白くねーやつ」。それがみんなが下したそいつへの評価だった。らしい。去年そいつと同じクラスだった友達から聞いた話だ。そんな話もまた、瞬く間に学年中に広がった。「勉強の邪魔をしちゃいけない」、そんな大義名分を掲げ、僕らはいつしか、そいつに話しかけなくなっていった。 実際、その方が四六時中問題集とにらめっこしているそいつには好都合だったのかもしれない。方程式なんかを解いてる最中に人に話しかけられると、どこまで計算していたかわからなくなってイライラする。それは秀才であるそいつも、凡才な僕も同じだ。多分。 そんなわけで、そいつが有名な私立中学の編入試験を受けていたことなど、誰も知らなかったのだ。 帰りの会の最後に、担任が「残念なお知らせですが……」と口を開いた。 「依田くんが、お父さんの仕事の都合で転校することになりました」 依田くん。ああそういえばそんな名前だったな、と誰もが思っただろう。 その依田くんは、担任に手招きされて教卓の前に立った。 初めてまともに顔を見た気がする。 「父親の仕事の都合で転校することになりました。僕としても寂しいですが、新しい学校でも頑張ります」 依田くんの転校先の中学校の名前を聞いてわかった。 そこが偏差値が高いことで有名な私立中学だと。親の仕事の都合で行くようなところではないのだと。 「転校まで残り少ないですが、最後の日までみんな依田くんと仲良くしてください」 他人事のように担任は言った。 「仲良くする」ことなど依田くんはきっと望んじゃいない。そう思った僕は結局、最後の日まで一言も依田くんに話しかけなかった。中には一言二言、話しかける人もいたが、依田くんは最後まで誰とも親しくすることはなかった。 「僕としても寂しい」なんて言っちゃって、そんなこと微塵も思ってないくせに。 きっと頭の中は新しい学校のことでいっぱいなんだ。僕たちのことなんて、小難しい英単語や数学の公式に埋め尽くされて、頭の中からすぐに消えてしまうに決まっている。 はずなのに。 どこかで、本当に寂しいと思っていないか期待する自分がいた。依田くんみたいな秀才でも、僕みたいな凡才と同じように、寂しいと思ってくれてるんじゃないか。本当は誰かと友達になって、みんなとテレビの話や音楽の話をして、放課後には友達の家に遊びに行くような、普通の中学生らしい生活がしたかったんじゃないか……なんて。凡才の僕は安易にそんなことを考える。でも、もしかしたら、ひょっとしたら……。 確かめようと思っても、明日からもう依田くんは来ない。 学年一の秀才のことを、僕は忘れたくても忘れることができないだろう。 親しい友達でもないくせに、これから先、頭の片隅にそいつは居座り続ける。後悔の二文字と一緒に。
みんなの答え
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面白かった!
もしかして、本当にあった話ですか? 凄い面白かったです!
やば
すごいと思います ホントに小説です くっきり頭のなかで像ができてくる すごい文章だと思います あなたがどんな人かはわかりませんが きっと秀才なんでしょう もしかしたらずっとそう言われ続けて 周りからは自分の性格が 霞んでみえてしまっている…… なんていうあなたについての妄想を 膨らませています… 頑張ってください!