ラブシチューション
思想研究会部室、化学準備室。 「ねえ。なんで、思想研究会っていう部活があるの?なんで化学部でもないのに、化学準備室が部活なの?」 私はヘッセの『車輪の下』を閉じると、タダちゃんに聞いた。 「さあね。部員は五人。その割に、化学準備室は広いよ」 答えながら、鞄から教科書を出し始めた。由良忠勝(ゆら ただかつ)と丁寧な字で書き始めたから驚いた。タダちゃんは普段、独特な字を書く。 「なんか、丁寧な字だね」 「丁寧な字を書けって妹に怒られちゃった」 「梅子(うめこ)ちゃん、賞を取ったもんね」 「今日、教科書に書いた名前を見せなきゃいけないんだ。梅子が字が綺麗なばかりに、僕の字の下手さが目立つんだよ」 「それを抜きにしても、タダちゃんの字は下手だよ」 「そう言う、静(しずか)の字も綺麗じゃないか。梅子が良い勝負だよ。高校三年生と小学六年生っていうのが残念だ。コンクールだと別々の賞になるからね」 「梅子ちゃんの字の綺麗さは異常だよ。あれこそ、流麗な字というものだろうね」 会話を終わらせて、本に戻ろうとすると、 「静、君の初恋はいつ?」 と、聞いてきた。 「なんで、そんなこと聞くの?」 「気になって」 うーんと。 初恋はいつだっけ? 「多分、小学三年生の時。隣の席の子に。タダちゃんは?」 「小学四年生のときかな。隣の家の子に」 それから、タダちゃんは意味深なことを言い始めた。 「静が僕のことを好きでも、静のことが好きなのは僕だけじゃない」 「ふぇっ?」 変な声が出て、口を慌てて手で覆う。 少し、落ち着きを取り戻してから、口から手を離す。 今の、私の都合のいい聞き間違い? いや、でも、確実に言った。 タダちゃんは私のこと…。 そんな私を面白そうに眺めながら、タダちゃんは言った。 「分からないかい?」 「分からない」 「静に気がある男子は多いんだよねー」 名前を書き終わったのか教科書を鞄にしまってから、男子の名前を列挙し始めた。 「以上、二十人が静に気がある男子だね」 「知らない名前ばっかり」 「でも、僕は知ってるよ」 「もしかして、その二十人は変人なの?タダちゃんが観察してるくらいなんだから」 「いや。大して面白みの無い一般人だよ。変人という変人はいないね」 え? タダちゃんがチェックしている変人じゃない一般人?じゃあ、 「なんで観察してるの?」 「これは観察対象リストとは違うよ。静におかしなことをしないように見張ってるの。うん、そうだな……」 言葉を切って、少し考え、それからにっこり笑って言った。 「監視対象リストだね」 うわあ。なんて黒い笑顔。 さっきのドキドキした気持ちも吹っ飛んだ。 当然のように、「監視」なんて言葉を使ったけど、その言葉の意味を彼は分かって言っているのだろうか。というか、闇を感じる。まあ、私の闇は結構大きいから人のことは言えないけど。 「ところで、タダちゃん」 「ん?」 「私のことが好きなのはタダちゃんだけじゃないって、さっき、言ったよね」 由良忠勝の顔の温度上昇中。 こういう顔を真っ赤になったと言うのかな。 タダちゃんはオタオタし始めた。 まず、机に置いてあった筆箱を落とし、その次に、椅子の横に置いてあった鞄を倒し、それから、謎の言葉を喋り出し、最後に、机にうつぶせた。 観念したように、上体を起こして、言った。 「静のことが好きです」 ロマンチックさのかけらもない告白だ。 もとより、恋愛ドラマみたいな告白シーンはそうそうないと思ってるけど。 私はため息をつき、にっこり笑った。 恥ずかしさと緊張を隠すために。 「私もね」 タダちゃんがさらにオタオタ。 棚に足をぶつけ、椅子を倒し、机の脚に足をぶつけた。 私は面白くなって、爆笑する。 「そんなにオタオタしなくても」 いつの間にか、緊張が解けていた。
みんなの答え
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おおー!
やばい!この話めっちゃ好きかも! てか動作の表し仕方上手いね!! 一つひとつの動きが頭にすぐ浮かんでくる! 素敵な物語をありがとうございましたー!