路地裏、遺失物届出センター
雨が降りそうな路地裏。人影ふたつ。 「すみません、遺失物センターにあなたの自尊心届いたんですが。」 「いらないです。」 また来た。受け取りたくないのに。受け取ったら苦しいのわかってるの。 「何回も来ないでください。処分して結構ですので。」 「処分して後悔するのはあなたです。」 「苦しさも感じないままこのまま世間の洗脳に従順に暮らしていくのがなぜダメなんですか?」 「ダメではないです。」 「じゃあ帰って。」 「それも無理です。」 「カラッポのまま人の役に立てるならそのまま生きて行きたいんです。」 「それがあなたに苦しみを与えていませんか。」 毎回そう。ここの遺失物センターの従業員はしつこい。粘着質。 どす黒くなってきた雲に見捨てられた雨粒ひとつ。 「雨が降ってきたので。早めに帰らせてください。」 「これで4回目なので。こちらとて早く済ませたいのは同じです。」 「要らないって。」 心無いまま生きてたいの。 偽っててもいいから、ほっといてよ。 「干渉しないで。」 「それも無理です。職業柄。」 「私だって、無理強いされるのは好きじゃない。だからそんなものない方がラクなの。」 「分かりますが…」 「じゃあ帰って。」 「5回目でホント受け取ってくんないと困りますからね。疲れたので、また。」 スッと消えていく従業員。 いつのまにか土砂降りだった。 路地裏のポスターが歪む。 本当はいるんだよ。 けど、あっちゃ苦しいんだよ。 「少し待って、考える。」 「ハイ?」 「ウゲェ、いきなり出てくんな。」 「失礼な、呼んだのはあなたでしょう。」 「まだ、もう少し」 「はいはい」 従業員はニコリと笑って路地裏の地面に腰を下ろす。 「まだ君が生きててくれれば、生き甲斐なんてものがあったろうに。」 「人のせいにするな。」 「自覚症状なしか。」 「そういうこった。」 従業員がやんちゃな笑顔を浮かべる。 「就職うまくいかなかったから空でしたわけ?」 「そう」 元気に頷く。 生前と変わらぬ、笑顔で。 「もらっとく。また落としたらよろしく。」 「落とすなよ。てか俺に会いたいだけ?」 「それは全体の約1パーセントだね。」 「嘘つけ。そうだろ。」 「君こそ」 彼が気まずい顔をして、今度こそ消えていく。 嬉しさと重い荷物を抱えながら、いつの間にか晴れた、輝く大通りに出る。 コメント うシェシェシェ by地縛霊
みんなの答え
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惚れました。。。
自尊心なんていう難しいテーマなのにすっきりと物語が終わって、かつ読み応えもあるなんて凄いと思いました!
面白かったー!
なんか、私も何かしら落としてそうで怖くなりました(笑)えー、努力する力落っことしてそう(;´∀`) アドバイスしていいのかな…たまに「このセリフ誰が言ってるんだろう…?」っていうところがあるので、もう少しだけ説明文を追加したら良いんじゃないかなと思いました!いや、私の理解力がないだけの可能性大なんですけどね(;・∀・) 今回も、素敵なお話ありがとうございました♪
えっ?凄すぎじゃん……
こんにちは! ましろです(*´∀`) 地縛霊さん……地縛霊さんってホント発想が素晴らしいというか………(過去作感想書いてないかもしれないけど読んでたと思う) 今回もタイトルから「え?」って引き込まれる作品でした!(・ω・´) 自尊心が遺失物で、、 さらに途中から雰囲気がガラッと変わるようなほっこりする感じで好き(*`∀´*) あとテンポ良! 最後地縛霊さんのコメントで大爆笑したんですけど((は 最初から最後までたい焼きのように素晴らしい小説ありがとうございました! 次作も楽しみにしてます! 長文失礼しました~~