未来へ繋げる菜の花畑
パパのところにいこう。 私は小さな娘に言った。菜々花はきょとんとした顔をして、こちらを見つめた。あの人譲りの猫のような大きな瞳と桜色の頬。その顔を見ると、どうしても彼のことを想ってしまう。 死のう。 そう思った。菜々花と一緒に。もう彼がいない世界は辛すぎるから。 「……菜々花ちゃん、パパのところ行こう」 「パパのところ?行きたい!」 菜々花の小さくてふにふにしている手を包み込む。暖かくなり始めた風が私のスカートを揺らす。 「悠祐……」 どれだけあなたを想っても、もう会えない。だから今から行くね……。菜々花と一緒に。 数年前のことだった。21歳の私は、幸せの絶頂にいた。今日は大好きな悠祐との久しぶりのデート。精一杯おしゃれをして家を出た。。悠祐に可愛いって言ってもらいたい。 集合時間の10分前、それなのにあなたはそこにいた。 「ごめん、待った?」 「俺が早く来すぎちゃっただけだよ」 悠祐はどこか幼い顔をしていた。猫のような大きな瞳と、桜色の頬。とてもかっこいい。 「今日は、清香をつれていきたいところがあるんだけど……」 「悠祐と一緒だったらどこでもいいよ!」 悠祐は行き先を言わずに電車に乗り込んだ。20分ほど電車に揺らされ、結構山奥へ入ってきた。 「ねえ、どこに行くつもりなの?」 「もう少しだから、ついてきて」 電車を降りてから、山の方へ歩いた。少しして、悠祐が私の目に大きな手を当ててきた。目隠し状態だ。 「え、なに?」 「大丈夫だから、ちょっとまってね」 手から伝わる彼の温度を感じながら、恐る恐る歩いていった。 「よし、もういいよ」 悠祐がそう言ったのは、結構歩いてからだった。目隠しがやっと解かれる。 その瞬間私は息をのんだ。そこは菜の花畑だった。 「ごめん、あんまり興味なかったかな?」 見とれて何も言わなかった私を不安に思ったのだろう。不安そうな彼を愛しく思いながら首を横に振った。 「すごい、綺麗だね。つれてきてくれてありがとう」 悠祐の手をとって、指を絡める。私、悠祐が好き。 「ねえ清香……」 悠祐は声のトーンをおとした。悠祐の大きな瞳が私をしっかりととらえる。 「結婚しよう」 心臓がどくんと鳴る。涙がこぼれた。 「え、ごめん!泣くほど嫌だった?」 おどおどする悠祐がおかしくて、少し吹き出しながら首を横に振る。 「うれしい」 やっと言えた。悠祐は私を抱き締める。私も抱き返した。幸せすぎて、幸せすぎて、たまらない。出会ってから6ヵ月。付き合って5ヵ月のスピード結婚。それでも良い。悠祐が大好き。それから少し菜の花畑を見つめてから、帰路についた。横断歩道に差し掛かったとき、幸せの絶頂にいた私たちは、気づかなかった。信号無視をしてこちらに突っ込んでくる大型トラックに。 「危ない!」 悠祐が気づいたときはもうトラックは私の目の前まで迫っていた。 「いやあぁっ」 耳をつんざく男が鳴り響く。トラックにひかれたはずなのに、なぜか私は尻餅をついただけだった。そしてひかれたのは…… 悠祐だった。 悠祐が私を突き飛ばして助けてくれたのだと、時差で気づいた。 「悠祐っ!!」 腰の痛みなんて気にならなかった。血だらけの悠祐にかけよる。 「悠祐!悠祐!!」 悠祐はすぐに救急車で運ばれたが、 死んだ。 悠祐は、死んだ。 悠祐は私を守ってくれたのだとずっと思っていた。でも違った。悠祐が守ってくれたのは「私たち」だった。私のお腹の中に赤ちゃんがいることが分かったのだ。もちろん、悠祐がいない世の中で喜べないし、たった1人で子育てする自信がない。すぐに悠祐のあとを追おうと思った。でも、友達の支えもあって、私は無事、菜々花をこの世に産むことができた。 これが、私の過去だ。私は菜々花と一緒に死ぬつもりだった。しかし、その前にあの場所に行きたいと思った。電車で20くらい揺られ、それから少し歩いた。目的地の少し前になると私は菜々花の目に手をやり、目隠しをした。 「なあに?ママ」 「あと少しだから」 そして、ついたら菜々花の目隠しを解く。菜々花の顔がぱあっと明るくなった。ごめんね、ごめんね菜々花。これから未来を奪うことになって。 そのときだった。春風と共に彼の声が聞こえたんだ。 「頑張れ」 しかし、どこを見渡しても悠祐はいない。いるのは、菜々花だけ。でも悠祐はいないけど、菜々花がいる。それは、悠祐が最後に残してくれた宝物。 私にできることはあなたを忘れないことと、あなたが残してくれた小さな命を未来へ繋げること。もう死ぬなんて言わない。 優しい春風が「私たち」を包みんこだ。
みんなの答え
※きびしいコメントを見たくない人は
「見ない」をおすと表示されなくなるよ!
凄いよ!
カウントダウンのやつが凄くて見に来ました! やっぱり好きです(笑) ファンになりました!
ふえ一一一ん、悠裕!
華さんは、神ですか? …私の名前にも「華」って使われてるんデス! お話は切ないものでした… 私もがんばります!
無題
凄い感動しました。 私も小説を書きたいと思ったのですが、こんなに上手く書けないですね 次の作品って考えているのですか? もし書くのであれば、すぐに読みたいです。 華さんの作品大好きになりました 年下から失礼しました!
甘切ない!
甘いけど切ない! 華さん応援してます!! 清香、菜々花を頑張って育ててね!
素敵…
なんていうんですかね、あの、色んな伏線が色んなところで回収されてて、しかもそれがすごく物語として効いていて、凄いなぁと思いました!もちろんもとのお話が素晴らしいので、華さんのテクニックでさらに素敵になっていたなと感じました…! それと、少し勇気を貰えました(笑)感謝します(*´`) 素敵なお話、本当にありがとうございました♪
悠裕!!
こんちわぁ!エナガ大好きなシマエナガでーす! やばい…好き! 春風と共に彼の声が聞こえたってところが特に好き! さすがや…尊敬します!! 神小説ありがとう! では、さいなぁら!