眠れる夜街の喫茶店。 ~悩んでる貴方の居場所になれたら~
コツ、コツ、コツ。闇が滲んだ道路に、独り乾いた足音を立てる。 時刻は夜23時。向かうは最奥、あの喫茶店まで。 暗く雲が立ち込めて、星の欠片ひとつも見えない。街灯に照らされる雨上がりのコンクリートから夜の空気が私を包む。 はぁ、と溜息をつけば白い息となる。さすがに10月の夜は寒くて、薄いカーディガンで来たのを後悔する。 下に向けていた視線を上にやると、温かい灯が目の前に。思わず胸がほっこりして自然に口角が上がる。 【月夜のやみいろ】 古びた看板は、いつもと変わらなくてなんだか不思議な気分。今日も嫌なことがあったのに。 そっと木のドアに取り付けられた金属製のドアノブを握る。ギギギ、と軋みながら開くドアの奥から、幸せの匂いが立ち込める。 カウンターに四つの椅子があるだけの小さな場所。狭いくせにごちゃごちゃと古びたがらくたがたくさんおいてある。あんてぃーく、というのだと最近マスターに聞いたなあ。 マスターは奥で作業しているらしく先に席に座る。秘密基地みたいな、自分の家のような感覚に目をつむる。ほのかにジャズが聞こえる。なまめかしい音色のサックスが私をやすらぎへと導く。 それといろんなコーヒーの香り。 別にコーヒーが大好きってわけでもない。むしろ紅茶派。でもなんだかここが良くて、毎夜会社帰りとか、眠れない夜とかに来る。月夜のやみいろ、っていう店名のようにここは夜を主に営業している。そんなことで稼げるのか、と聞きたいところだがなんだかマスターは株やら何やらをやっているようで、前に延々とそういう話を受けた。 自分の好きなことを語るマスターは子供みたいで面白いのだ。だから興味ない話でもずっと聞いてられる。 目を開けると、すぐ前にマスターがいて少し驚く。彼は少しかすれ気味の声で“こんばんは”と笑いかける。 軽い会釈で返し、肩の力が抜けるのを感じる。マスターは早速コーヒーの支度をすすめる。いつもマスターのおすすめと小さめの日替わりケーキ。ケーキじゃなくて、プリンとかシュークリームとかいろいろある。 確か裏の通りでやってるケーキ屋の店主とマスターが知り合いで、割安で売ってくれるのだそう。そこのスイーツは絶品で、よく雑誌にも取り上げられる。確かに頬が溶けそうなまでに美味しい。 ふわぁっとコーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐる。ここだけには”時間“なんて概念はなくて、時計はそれの赴くままに針を動かすだけ。 まぁ、たまに夜更かししすぎちゃうときもあるんだけどね。 どうぞ、と真っ白いカップに闇色の泉が満ちる。添えた手に温度が移って身体全体に広がっていく。 香りを胸いっぱいにかいでから、ひとくち。さすがにブラックは身に沁みる。眠りかけていた頭が目覚めて来るのを感じる。ほのかな酸味が微妙にマッチして、コーヒーマニアでもない私にでも美味しい、とわかる。でもちょっと苦いので一緒に出してくれたお砂糖を1杯入れる。 ”今日のは酸味の強いトラジャブレンド、です。“ と、とらじゃ?ここに通いはじめて思ったが、コーヒーの名前はなんとも分かりにくい。聞けばなんでも説明してくれるマスターはすごいと思う。 今日のスイーツはプリン、だ! 様々なスイーツがあるけれど特にプリンは大好物。しかもこのプリンは今流行りのとろとろじゃなくて、固めプリンなのだ。カラメルがほろ苦くて、卵いっぱいのプリン生地とホントによくあう。最高だ。昔、どこかで食べたことのあるようなノスタルジックな味。気付けば一瞬で半分を食べてしまった。マスターが洗いものをしながらこっちを微笑ましそうに見るのでなんだか少し気恥ずかしいような。 でもこのプリンにはかなわん、と甘いで満たされた喉をコーヒーでリセットする。そのままのコーヒーも美味しいとは思うがやはり甘いものと一緒に食べるのが世界一だと思う。 ほっとひといき。今日はなんだか人と話したい気分。じゃあマスターにあとで話し掛けよう。マスターはいい人で話したくないときは話しかけないでくれるし、辛いことを吐露すると一番欲しい言葉をかけてくれる。 湯気を立たせる熱々のコーヒーと食べかけのプリンと優しいマスター。 ...確かに今日も嫌なことあった。多分明日もあるし、ずっと未来にもある。でも、こうして美味しいもの食べるだけでも幸せ、と感じる。 この小さな幸せを胸にして嫌だなんて言いながらまた、今日を乗り越えてきてしまうんだ。でもそれで悪い気はなんだかしない。 こうやって息抜きできる幸せ。また、ここに来よう。また、明日へ歩もう。 まだ、生きてみよう。 +あとがき?+ 私のここ(キッズ相談)に対する思いを喫茶店に重ねました。安らぎの場所はこの話のように現実になくてもいい。ネット空間でも全然いいと思います。それで貴方が前を向ければ。貴方に、少しでも幸せと感じられる時が多くありますように。
みんなの答え
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う~ん
素人が口を出して申し訳ないのですが 『自然に口角が上がる』 のところの 『に』 が 『と』 になると「自然と口角が上がる」 となり文章が成立すると思います。 頑張ってください!応援してます!
おーー!
短編小説に回答したの初めてですが、すごく良い話だと思います! 表現の仕方がめっちゃすごくて、プロみたいだと思います!心が温まりました! これからも頑張って下さい!