星のない街で
東京は、凄い! 私は、若きファッションデザイナーの桜子さんに弟子入りしに滋賀から上京した、小川優花。 友達のひまりに付き添ってもらって上京した初日から、なんと私の大好きな「プキュプキュ」というキャラクターを発案した碧さんに会えた。プキュプキュは、濃い紫の丸い顔に、リアルな目と口が付いたキャラクター。ひまりは『何この怖いキャラ…』っていうけど…今日も明日も、私のバッグにはプキュプキュのキーホルダーが揺れている。 私はギュッと、汗をかいた手でプキュプキュを握りしめる。泣かない、泣かない。 「大丈夫?優花ちゃん」 弟子仲間の香苗が声をかけてくれる。 実は私、最近、ファッションデザイナーが向いてないんじゃないかって思うことが増えてる。 趣味の悪いキャラクターが好き。小さい頃から、周りにダサいってからかわれてた。 そんな私が、デザイナーって…。 「優花ちゃん、ちょっと来て」 ある日、桜子さんに呼び出された。 私が桜子さんにくっついて部屋に入ると、夕陽に照らされた桜子さんの横顔は、俯いていた。 私は何を言われるのか、悟った。 「優花ちゃん、あなたのデザインは個性的すぎる。個性は、もちろん良いものなの。でも、皆んなが着たいと思う服を作る、それも大切なの」 淡々と語る桜子さんを見つめながら、涙が滲んでくる。 「分かりました」 そう言い捨てると、私は泣いているのを隠すように俯いて部屋を出て、廊下を駆けて、ビルを出た。 桜子さんは、遠回しに、私には才能が無いとおっしゃった。 長年の夢は、あっという間に砕けた。でも、とっくに昔から決まっていたことのようにも感じて、また涙が一雫溢れた。 東京の夜を駆ける。 意味なんて失った抜け殻の私は、ただひたすらに、止まらない感情を地面にぶつけるみたいに。 ふと、空を仰いだ。 ネオンのせいで、星すら見えないじゃねえかよ! 夢を追いかけ希望に溢れてたから、あの日は東京が素敵に見えた。 今はただ、ひたすらむかつく。 自分の趣味が恥ずかしくて、プキュプキュを握ることさえできない、そんな自分にむかついているから、自分が見る全てのものがうざったいんだ。 視界の片隅に、怪しい占いテントがあった。 『夢を追うあなたに捧ぐ占い!』 よく考えれば夢を追いかけ上京した人が多いからこんな謳い文句なのかもしれないけれど、私は自分のための占いテントだって思った。 そしていそいそと、占いテントに入っていった。 「占い、お願いします」 黒いマントに身を包んだ女性が、水晶の中を覗き込む。その「むむむ~っ」感が安っぽくて、こんな占い信じるはずもないのに、なんで占って貰ってるんだ、と我に帰った。 「自分を大切に、初心にかえりましょう。そしたらきっと、あなたの個性が生かされる」 どこかで聞いたことのある声でそう言われると、たかが占いだと知っているのに、桜子さんの言葉と重ねて、胸に染みてしまう。 「代金は…」 私がいうと黒いマントの女性は、 「いりません。お金なんかより、優花さんの幸せが大切です」 といった。 「な、なんで私の名前を…」 言いかけると、黒いマント中で、碧さんが微笑んでいるのを見た。 自分を大切に。 小さい頃「ダサい」ってからかわれて泣いた日、先生に言われたなぁ。 なのに、今までちっとも分かってなかった。 それから私は滋賀に帰って、高校時代にアルバイトしていた、今ではすっかり赤字経営の寿司屋で働き始めた。あそこの店長、実は高校時代、好意を寄せてたんだよなぁ。 赤字脱出のための新商品会議。 そこで私は、小川家特製の青いカレーを、寿司屋の新商品にすることを提案して、見事採用! 青カレーは大好評で、寿司屋からカレー屋にすることに。 「優花…すごいぞ!最初、青いカレーって変なのって思ったけど、めっちゃ美味いし…。ありがとう!」 店長との距離も縮まった。 私は嬉しさのあまり、バッグにぶら下がったプキュプキュを撫でた。