短編小説みんなの答え:0

故郷を探して

 朝,いつも通りの騒々しさ。葱油餅の焼けるにおい。そして駅へ走る僕。いつも通りの毎日だ。  「これを望んでここまで頑張って来たのか・・・」そう呟きながら悠遊カードを改札にかざす。  僕がここ台湾に来たいと思ったのはちょうど5年前の秋だったと思う。 元々海外には興味があって,旅行が好きだった。台湾に行くことが決まっては少し調べてみた。「龍山寺」「太魯閣」そして「士林夜市」など色とりどりな写真と、スマホの画面中に散りばめられた文字に心が奪われた。  そして旅行当日,台湾の玄関とも呼ばれる桃園国際空港(当時は中正国際空港といったかもしれない)に降り立った。当日,到着は夜だったので台湾名物の夜市に行った。「生煎包」や「臭豆腐」,「魯肉飯」。どんな食べ物かは分からないがいい匂い,そしてみんなが美味しそうに食べる姿は何かそそられるものがあった。これを見て食べない訳にはいかない。 ガイドブックにあった鶏排屋に,何かに引っ張られるように向かった。日本語が通じる店が多く,その店も「日本語OK」と書いてあったがせっかくだからということで調べておいた中国語で注文してみた。「ウォーヤオヅェガ」。  そんな楽しい日々は一瞬で過ぎるもので中部国際空港からミュースカイ乗っていた。「あの場所には本当の自分がある・・・」そう呟いた。というか,言葉が脳を通らず口へ突き進んだ。そしてあの場所へと自分も。  「下一站,公館」・・・。あっ,やば次だ。朝の公館駅は大きな大学が近いおかげかいつも賑やかだ。でもここ最近は少し違う気がする。彼女が駅前で空を見つめるよう見なってから。  最近いつも同じ人が3番出口の前に立っている。悲しくも,嬉しくもない,でもなぜか美しい。そんな目をした人が。  いつしか僕は彼女と僕のつたない中国語で毎朝話す仲になった。日本のこと,彼女が生まれた台中のこと。しかしこれだけは聞けなかった。「今まで公館駅でなにをしていたの」とは。  ある日,公館駅にはいつもの賑やかさが戻っていた。僕は焦った,あの人は。人に聞きたくても彼女の名前が分からない。  「あっ。日本だ。」  僕は故郷,日本の文化や歴史そして人の温かさを彼女に教えてあげるのが好きだった。  そしてあの場所であの青い空を見上げた。あなたのいる日本と同じ空を。

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