ポスト・ブルー
厭と言うほど雨が降っている。昨日までの厭と言うほどの快晴とは取って代わって、厭と言うほど厚い雲と静寂だけがある。煩いのは雨だけだった。 物心がついたばかりの頃、こんな天気の日に一人で外を練り歩いて風邪ひいて、 「せんせ、カゼひいたの」 と鼻水垂らして診療所に行ったことがあったっけ。 先生は笑いながらティッシュをくれたんだ。まだ、鮮明に覚えている。 先生がいなくなった診療所は、ひどく寒くて、暗かった。 先生のぬくもりがどれだけこの離島を明るくしていたか、痛いほど感じる。 20ちょっとでこの島の医者として連れてこられた先生は、瞬く間にこの島の人気者となった。 おばちゃんには若い男だともてはやされ、おっちゃんには絡まれ、子供には懐かれ。 「先生がいいこと教えてあげようか。すごおく空が青くってきれいな日に、大きくって白い雲があったら、そのあと雨がいっぱい降るんだよ。」 「なんでよう、ずっと晴れがいいよお。」 「あはは、先生もお空のご機嫌は治せないもんなあ」 先生の、眼鏡越しの柔らかい笑顔が好きだった。 その当時の私はそんな言葉知らなかっただろうが、言うならば磨けば光るタイプの陰キャみたいな見た目だった。眼鏡・黒髪・前髪・細身、それなのに私たちにはとびきりの笑顔を見せるのだ。 その先生が、優しく語りかけてくれるのが好きだった。どうしようもないほど。 ――それが恋だと、気づいたのは、去年の、15歳の夏だった。 叶わない、否、叶ってはならない恋だとはわかっていた。 だけど、私が上京して、この恋の馬鹿馬鹿しさに気づくその時までは、私に寄り添っていてほしかった。その時になったら、ちゃんと諦めるつもりだった。恋仲になんてなるつもりはなくて、ただ、会いに行ったときに、今日はどうしたの、何でもないのに来ちゃいました、それは重傷だね、患者さんが来たら帰ります、と言葉を交わせるだけでよかった。 「先生、東京の病院に行って頑張ってたみたいだけど、亡くなっちゃったんだってよ」 それなのに。 ここ最近診療所を留守にしていると思ったら、東京で、息を引き取っていた。 何も言わずにいなくなってしまった。 なんで、どんな病気だったの、と母に聞いても、不治の病としか聞いていない、と返ってくる。心配かけたくなかったのかもね、と他人事のように言う。 知らないんだから仕方ないんだろうが、なんだか許せなかった。 診察室は、先生がいた時のまま残されていた。 新しい医者が来て、跡形もなくなってしまう前に、あの診療所に行かなくては。 そんな使命あるわけないのに、勝手にそう思って、気づけば走り出していた。 この小さな丸椅子に、スタイル抜群の先生が窮屈そうに座っている姿が鮮明に思い浮かぶ。カラフルなカルテを片手に、くるくるとペンを回しているんだ。 先生は、数十人しかいない島民のために、一人一冊のノートを用意していた。 もちろん何も書いてない人もいただろうけど。 デスクの棚から、私のノートをそっと抜き取る。 『7月13日 症状:なにもない かなり重症』 『7月15日 再診:なにもない 重篤。』 まぎれもない、先生の字だった。 忘れかけていた涙が、堰を切ったように溢れた。 少々難しい文になってしまいました。神話大好きマンの神話人です。 神話モチーフの小説を書きがちなのですが、 ニフティ用ということで久々に現実味のあるお話を書きました。 彼女のその後は、ご想像にお任せします。では。
みんなの答え
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感動しました!
情景描写も、表情もすごかったです! まさかの展開にびっくりして、感動しました! 私もこんな小説が書けるようになりたいです(*≧∀≦*)
感動ぉ!
こんにちは!元瑠璃の空愛だよ! .。。◯ 感動ぉしたっ! 涙が止まらない...! .。。◯ また会おうね!