雨がやみませんね
ただ、静かに雨音が響くとある夏の昼下がり。 バス停には俺とサラリーマンの二人だけ。 この時間帯、バスはあまり来ない。 一人分の席を開けて俺らはバス停のベンチに腰掛ける。 毎朝見かけるサラリーマンの男性。25歳ほどだろうか。 いつもは綺麗にセットされた髪も、今日は急な雨で崩れている。 少し透けたシャツに気づいて顔と耳に熱が集まるのを感じ、すぐに目を逸らす。 だけど、やっぱり気になってちらりと彼の横顔を盗み見る。長いまつ毛、綺麗な横顔、高い鼻。そして、血色の良い赤い唇につい目が奪われる。 すると、彼はこちらに気付き軽く笑った。 「せっかくの半休なのに雨に降られちゃったよ」 内心かなりドキッとしたが、冷静を装って俺は答える。 「それは、残念ですね…」 「君は?この時間は学校じゃないの?」 「…早退して」 「体調不良?」 「あ、いや…その」 実際は単なるサボりだ。別に嘘をつけばよかったのに、この人には何故か嘘をつきたくなかった。 彼は少し驚いた顔をした。…失望されただろうか? 「ははは、そういう日もあるよな」 彼は深堀はせずにまた軽く笑った。 「怒らないんですか?」 「何を?…あーまあ、真面目そうなのに意外だなとは思ったけど、そんな堅苦しく生きてたら息詰まっちゃうでしょ?」 「…なるほど」 彼は目線だけこちらにやり、ニヤリと口角を上げた。こちらも彼に対して真面目そうだという印象があったから、そのいたずらっぽい笑い方を少し意外に思った。 「これからどこ行くの?」 そう言えば何も決めてなかった。何となくこのバス停に来て、何となくそのまままっすぐ家へ帰ろうとしていたが…なるほど、どこかに寄り道するのもありなのか。 「どこ行っても楽しいけど、制服だとバレるから着替えた方がいいよ」 「え」 「俺も学生の頃はしょっちゅうサボって遊んでたからさ。先輩からのアドバイス」 あ、まただ。少年のような笑顔。 俺は「ありがとうございます“先輩”」と言い、二人で笑いあったあと遠くの入道雲を眺めた。 雨音と俺達の声だけが響く心地よい静かな空間。この世界に二人だけになったかのようだった。 しばらく経つと家の方面のバスがやってきた。 彼はバスに乗るためにベンチから立ち上がる。雨はとっくに止んで、そこにはただ青い空と白い雲だけがあった。だけど俺は言う。 勇気を振り絞って声に出す。 「雨が、やみませんね」 聞こえただろうか。それとも彼の耳に届く前にバスの音で消えてしまっただろうか。 しばらくの沈黙が続く。 ―あぁ、言わなければ良かったかもしれない。これからも「同じバスの人」という関係を続けておけば良かったかもしれない。 そう思ったとき、彼はこちらへ向かって歩いて来てまた隣に座り直した。 「そうですね、雨がやむまでもう少し居ましょうか」 顔を上げると、彼はさっきの少年のような笑顔ではなく大人の余裕のある笑顔をしていた。 そして、永遠に続く青空の下、俺達はまた話し始めた。 【解説(?)】 高校生×サラリーマンの純情BLです。 「月が綺麗ですね=あなたのことを愛しています」といったような感じの言葉がいくつかあるのですが、今回はそのうちの「雨がやみませんね」「永遠に続く青空」を使いました。知らない方はぜひ調べてみてください。(私がここに書くより自分で調べた方がワクワク感あるかなーと思うので) 最初に高校生×サラリーマンと書きましたが、今回は『純情』をテーマに書いたので特に受け攻めは考えてません。私的にはどちらも捨てがたいし、どっちがどっちでもおいしいなと思うので、そこはみなさんのお好きな方で想像してください。
みんなの答え
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すご・・・!!
こんなに美しいBL初めてみました…っ! 月が綺麗ですね、などの隠語?などには詳しい方で、そういうのが使われている作品をよく見るのですが、本当に最高でした!! ほどよいサラリーマンと高校生の関係で大人の恋愛って感じがすごいです!! 情景描写とかもとても上手で尊敬です! 素敵な作品、ありがとうございます!!
すごいですね
文がとても丁寧な書き方で、その時の情景が想像できました。 私はBLはあまり見ないのですが、この二人の関係はいいな、と思いました。 次回作に期待しています。