真夜中のビスクドール
昔から、昼間が嫌いだった。 燦々と照る太陽だとか、それを浴びて光る花の色だとかを見ていると、目の奥がじりじりと焼け爛れるような気がする。 代わりに俺は、夜を好んだ。 不気味だと冷たいと、人々がそう話す夜の闇。けれど本当は、とても優しい。何もかもを赦すようなその空気感が、俺にはとても心地よかったのだ。 シャンデリアの光に当てられて、優しい闇夜は霧散する。無理やり連れてこられた、騒がしい夜会の会場。光の元で忙しなく動き回る真っ黄色のドレスは、目に痛い夏の花々を思い起こさせた。 肩幅より大きく広がったスカート、わざとらしい桃色をした唇。こちらにねっとりとした視線をよこすのは、夏空と同じ青い眼。 その嫌にゆったりとした手つきが、服越しに腕をなぞる。それを感じ取った瞬間、俺は勢いよくその手を振り払っていた。 周囲の男共がにわかにざわめく。“社交界の向日葵”の手を払うとは。そう、非難めいた口調で誰かが言った。 途端、方々から突き刺さる視線達。それらから逃れるように、庭園へと姿を眩ました。 ひんやりとした夜の空気と、花壇から香る土の匂いに、ようやく冷静さを取り戻す。心底不愉快だったとはいえ、令嬢に対してあの反応はまずかったか… ため息を噛み殺しながら、花壇の間を縫って歩く。今は少し、1人になりたい気分だった。 ぐるりと建物の裏手に回り、夜会の喧騒が遠くなった頃。その人は、俺の視界に飛び込んできたのだ。 裾の狭い、随分と質素なドレス。袖口と裾、腰元には、暗紅色のリボンが控えめにあしらわれている。するりと腰までを覆うのは、長い漆黒の髪。 どこか遠くを見つめる、その瞳の色が知りたくて。 「レディ」 俺は思わず、彼女に声をかけていた。 突然名前を尋ねた俺に対して嫌な顔ひとつせず、彼女の紅い唇は音を紡ぐ。 「──」 彼女が口にしたその名は、俺にも聞き覚えのあるものだった。 “人形令嬢” 無口でいつも無表情。その美しく整った顔立ちでさえ、却ってその不気味さを引き立てる。この国の社交界で、そう遠巻きに囁かれている人物だ。 彼女本人が何も言わないのを良い事に、突拍子もない噂が飛び交っていたのを思い出す。 突然黙り込んだ俺を不思議に思ったのだろう。彼女が僅かに顔を傾け、こちらを伺った。その黒色の瞳に、屋敷の窓から見える灯りがいくつも映り込む。 ──ああ、星空だ。 この人は、夜だ。静かで穏やかな夜、そのものだ。漆を溶かし込んだような黒髪も、きらきらと光る星の瞳も。その陶器のような白肌には、きっと真紅の薔薇がよく似合うのだろう。 満天の星空を瞳に宿し、ただ静かに俺の言葉を待つ彼女。この場所には、噂されていた不気味な人形などいなかった。 夜の女神のように美しいこの人は、それでも間違いなく、血の通った人間なのだから。 「よろしければ…私と、踊っていただけませんか」 驚きに見開かれた瞳。そこに浮かんだ星々が、光を取り込んでにわかに数を増す。きらきらとした星達を数回瞬かせた後、俺が差し出した手に、そっと彼女の掌が預けられた。 冷たい手。小さな手。 この人の事を、皆が恐ろしいと、不気味だと言う。 しかし今の彼女は、ただひたすらに、穏やかに。この腕の中で、ワルツのステップを踏んでいた。
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言葉選びが上手!!
こんちゃっ(^^♪花凜です(#^.^#) 【本題】 言葉選びが上手!! 読んでくれてありがとう(*'ω'*)ばいちゃっ(^^♪
文章がとても素敵でした。
コメント失礼します。 率直な感想を申し上げますと、本当に文章が読みやすく、引き込まれました。 2000字という数少ない文字で主人公の置かれている状況がわかりやすく描写されており、また社交界の向日葵と人形令嬢の表現の対比によって主人公の心情の細かい部分を汲み取れるようになっている部分も素晴らしかったです。 あっという間に読み終えてしまい、名残惜しささえ感じられました。 最後に、投稿してくださりありがとうございます。 これからも応援しています。