おねがい
母は私を捨てて去っていった。父も交通事故で死んでしまった。そして―今までずっと優しくしてくれた祖父まで亡くなった。私の周りには誰もいない。いや、嘘だ。正確にはまだ1人残っている。柏木。この江崎家にずっと勤めていた執事の柏木だけは残っている。 どうにかして柏木だけには、そばにいてもらわなくては。 私は三大財閥である江崎グループの一人娘だ。江崎樹里。両親が高い金を払って、高名な僧に付けてもらった名だと母に教えてもらった。もっとも、こんな事は昔の話である。 今まで生活には何も困らなかった。ただ御大層な家柄に資産がつけば血の繋がりは温もりよりも猜疑と争いの温床だ。金がある分、跡取りを巡ってのは争いはえげつなかった。そして母は他に男をつくって出ていった。私は母に捨てられたこともだが、母が親権争いで親権をあっさりと手放したことがショックだった。要するに新しい生活には私は『邪魔』ということだろう。中学生の今なら受け入れられるが当時小3の私には耐え難いことだった。 リスカに食欲不振、鬱にまでなりかけた。私の世界には黒しかなかった。死のうと思った。そんな私の世界に光をもたらしてくれたのが、柏木だった。私が5歳の頃から、柏木が大学生の頃からこの屋敷に勤めてくれている。両親が忙しかった分、いつも柏木が私の世話をした。褒めてくれるのはいつも柏木で時には、私を叱ってくれた。そんな柏木が部屋でそっと手を切って死のうとしているところを止めてくれた。死ぬほど叱られた。そして何故か―柏木は号泣していた。こんなにも他人がこの私のことを想ってくれているのだと知って、私はホッとした。 だから祖父まで亡くなった今、柏木だけには残ってもらわねばならない。だが、今まで勤めていた使用人が皆辞めてしまった。子供と満足な主従関係がこの先ずっと得られるわけがない。当然だ。賢明な判断である。どうする?柏木はまだ20代、まだ若者で未来もある。いつしか柏木が私の元から去っていくのは時間の問題だと思った。そうだ。なら私が死ぬまでの間なら。病気になって余命宣告をされれば。それなら柏木の負担にもならないし、柏木は優しいから『不治の病に罹った可哀想な樹里』を見捨てたりはしない。そして私は医者に金を積んで嘘の診断書を書かせ、私の専属の医者として屋敷に勤めさせることにした。勿論、医者は治療なんて事する必要はない。全て嘘なのだから。そして余命半年の診断書を見せると、案の定柏木は残った。だが嘘は時間が経つほどに私を苦しめた。もういっそのこと全てを柏木に打ち明けたい。 「私の傍にいて。あなたが好きなの。」 そんなことが言えるくらい大人だったら良かったのに。 そしてこんな大きな嘘は隠し通せるはずもなかった。 偽の診断書を作らせた医者とのメールのやり取りを柏木に見られてしまった。 終わりだ。柏木は呆れて、きっと私を嫌いになるだろう。私も一人になって一人で死ぬんだ。………そんなの、いやだ。いやだいやだいやだいやだいやだ。そばにいてほしい。柏木にそばにいてほしい。 「ッごめんなさっ」 泣きながら謝罪の言葉を口にしようとした時、思い切り抱きしめられた。柏木に。びっくりした。言葉が出なかった。 「随分酷いことをなさいましたね。」 当然だ。軽蔑されても仕方ない。そう思ったのに次の言葉で私はまた言葉が詰まった。 「去って行った使用人と私が同じと思っていたのですか。そんな嘘で脅さないと私があなたを見捨てると。」 「何かして欲しい時はどうするんですか。」 諭すように叱る声は昔から少しも変わらない。忙しかった父より叱る回数の多かった柏木は誤魔化せとも脅せとも教えなかった。 「私のこと、嫌いにならないで。」 ぼろぼろ涙が出て止まらない。そうだ柏木は昔からそう言っていた。なにかして欲しかったらちゃんとお願いしないといけなかったのだ。 「私が病気じゃなくてもずっと私の傍にいて。かわいそうじゃなくても見捨てないで。」 言いつつ柏木が強張っていた私の手を包んだ。 「私からもお願いしてよろしいですか。もう二度とこんな嘘は吐かないで下さい。――あなたが死ぬなんていう嘘は。」 厳しく咎める眼差しが逆にどれほど大事にされていたか悟らせた。 何か言おうとしても泣き声にしかならない。柏木はそんな私を、昔より少し遠慮がちに抱きしめてくれた。 :end :あとがき ご覧いただきありがとうございました!書いていて楽しかったです(*´ω`*) 今回は小さい頃の出来事が原因で自己肯定感の低い女の子の物語です。切ないですね…。 柏木の優しさと樹里の今まで味わってきた寂しさを表現するのに苦労しました!感想頂けると嬉しいです! 改めて今回はお読みいただきありがとうございました。またいつの日かご縁がありますように。
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チョー凄い!!
こんちゃっ(^^♪花凜です(。・ω・。) 【本題】 チョー凄い!! 読んでくれてありがとう(*'ω'*)ばいちゃっ(^^♪