青春、この瞬間
えんぴつがカッカッと音を鳴らす。 合間にページをめくる音が挟まる。 誰一人、声を出さない。 ミユはこの静かな空間が好きだ。 一人で、夕日のあたった海を眺める雰囲気と似てる、 心地よい沈黙。 チャイムが鳴ると、とたんに全員しゃべりだす自由な感じも好きだ。 みんなの気楽で明るい声の中で読書をするのが、 ミユの何よりの楽しみだった。 友達もいない、好きな人もいない、だけど、 ミユはこの生活に満足していた。 今日までは。 「ミユさん、ミユって呼んでいい?」 「ミユが呼んでる本、それ何?」 「ミユ、放課後空いてる?」 同じクラスの吉野林太。 リンタが話しかけてくると、ミユは仕方なく本を閉じ、目を合わせる。 人づきあいが苦手なはずが、ミユは答えてしまう。 「いいよ」 「小説」 「空いてない」と。 “恋”の感覚を知らなくて、ミユはリンタが何を思って 話しかけてきているのか分からない。 分かったのは二ヶ月後、暗い教室の中で。 「好き、なんだ。付き合ってください」 いつもとは違う緊張気味の声。 汗だくの顔。 ふと、笑えた。 こんな私を好きになってくれてる。 胸が高鳴った。ドキッとした。 この瞬間、今の一瞬が「恋」が分かった時だった。 「い、いいよ」 そして、初めて彼氏ができた。