短編小説みんなの答え:0

文通と悪友

 文通がしたい、と、ふと思った。  LINEだのインスタのDMだの、なんでもかんでもスマホに終始してしまう昨今の生活がなんだか嫌になったからである。とはいえ手紙を入れた小瓶を海に流して偶然的な文通を始めるのは非現実的極まりなく、かといって恋慕っている雪子さんのポストに突如手紙を入れることは不審者がられてしまう危険があるため相応しくない。むくむく湧き上がる文通欲の行き場をなくして、私は親友であり悪友でもある池野に相談した。 「文通したいっていうか、『雪子と』文通したいんでしょう」 「まぁ大体そんなところだ」 「じゃあ僕が、送り主の名前は非公開だって言って渡してきてあげますよ。向こうにも気味悪がられないし、あんたものびのび雪子と文通できる。ほらwin-win」 「それはありがたいが雪子さんを呼び捨てにするな」 「そんなに怒るなんて、本当に大好きなんだなぁ」  からかわれはじめたので腹が立ったが、ともかくこうして文通は始まった。名前を明かせず、自分のヒントになるようなことも言えないので緊張しつつではあったが楽しかった。送るとすぐに返信してくれる雪子さんの優しさに触れて、余計に恋心は膨らんだ。雪子さんはきれいな字を書く。丸っこく親しみを持てる字だ。こんなことを言うと少々気持ち悪いかもしれないが、便箋からほんのり石鹸の匂いがして、雪子さんの長く艶やかな髪を思い出させた。会えなくても、それだけで満足だった。  しかし少し経った頃、段々と「会いたい」と思い始めた。私は雪子さんとはバイト先が数年前に同じだっただけで、文通以外でまともに話したことがなかったからだ。しかし僕は会いたかった。文通から始まるカップルなんて、優雅じゃないか。  手紙の送り主欄に書いてあった住所を頼りに、雪子さんの家に向かってみた。初めこそわくわくしていたが、だんだんと不思議に思ってきた。なんだか見覚えのある景色だったからだ。もう少し進むと、その違和感の理由がはっきりわかった。  ここは、親友であり悪友である、あの池野のアパートだ。    しかしなぜだろうか。まさか池野は雪子さんと同じアパートなのだろうか。そんな話は聞いたことがない。念の為、部屋番号を見ると、それは池野の部屋番号だった。これには驚いた。と言うより混乱した。池野の部屋のドアは鍵がかかっていなかったためドアを開けて「池野ー!!!」と叫んだ。すると、大層驚いたような顔でこちらを見る池野が、部屋の真ん中の机で、見覚えのある文字で手紙を書いていた。雪子さんの字、だと思っていた字だった。 「あー、バレてしまったか。あのあと雪子さん宛と言って君が渡してきた手紙を見たらちょっと面白くなっちゃって、イタズラしてやろうと思っちゃって。あの手紙、ぜーんぶ俺が書いたんだよね。残念」 池野は親友であり悪友であると思っていた。 これからはただの悪友と呼ぼうと思った。

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