ありがとう、ナツ。
「…はぁ。どうしよう、これ」 ぼくの机の上には、白紙の原稿用紙と、万年カレンダーが置いてある。万年カレンダーによると、今日の日付は8月31日。夏休み最終日だ。…あとはもう察してほしい。 「……夏休みの思い出って…。特に何もしてないんだけど」 記憶を振り絞って宿題に取り掛かった。エアコンはついているのに、なんだか暑い。夏を象徴する蝉の声すら、なんだかイライラする。 「…もう!」 …夏「休み」なのに、なんでこんなことしなくちゃいけないんだろう。 「やったー!!」 夏休みの宿題が全て終わったとき、時計は0時を指していた。これなら、遊びに行ける。1時からと約束していたから。 「…お腹すいたし、カップラーメンでも食べようかな」 カップラーメンなどの保存食が入っている箱を漁っていると、箱の中から大きな蝶が出てきた。 「うわぁ!?」 ぼくは虫全般が大の苦手だったので、腰を抜かしてしまった。すると、蝶が綺麗な女の子になった。 「…え?」 ぼくが目の前で起こる現実とは思えないことに追いつけないでいると、女の子が微笑んだ。 「…やっとあえた」 女の子は風鈴のような可愛い声だった。女の子は、ぼくを抱きしめて、 「…おねがい。あそびにはいかないで。おにいちゃんがこっちにくるの、ナツ、いや!」 …ナツ、それは、生まれてからすぐに天国へ行ってしまった、ぼくの妹の名前だった。ナツは、それを言うと、消えてしまった。嫌な予感がしたので、やっぱり遊びには行かないと友達に連絡した。ぼくが行かないならと、みんな遊びには行かなかったそうだ。 1時、ぼくの家の近くの交差点で、交通事故が起こった。車と車が衝突したんだ。奇跡的に、怪我人はいなかった。けれど、ぼくが遊びに行っていたら、巻き込まれていただろう。考えただけでゾッとする。 「…ナツが守ってくれたんだね。車に乗っていた人たちも、友達も、ぼくも」 そう思わずにはいられなかった。