「こんにちは。」
僕はいつの間にか、白い霧の中を彷徨っていた。 明日は中学校の入学式。僕__嘴平 和人(はしびら かずと)__は新しく中学1年生となる。 彷徨ってばかりいると、目の前には銀世界が広がっていた。 不思議な雪だった。太陽の光が照り付けているのに、とけていない。それどころか、もっと綺麗になっていた。 「わあっ……。」 僕はキラキラとした銀世界にうっとりしていた。 すると、ふわりと女の子がやってきた。 黒い髪で、ショートとロングの間くらい。 「こんにちは。」 そう言い残すと、女の子は去って行った。 女の子は僕と同じくらいの年齢だろう。僕の中学校の女子の制服をきていた。 ジリリリリリリリリ!!! 「和人ー!起きなさーい!」 あ……朝か。 僕はまぶたをこすり、ベッドから起きた。 家のドアを開けると目の前に黒い車があった。 「うわっ!」 「ご、ごめんなさい!」 車から出てきたのは、夢で見た女の子とそっくりだった。 「こんにちは。私、飛鳥ヶ丘(あすかがおか)中学校の野添 紗夏(のぞえ さな)です。失礼しました……。」 「ぜ、全然大丈夫です!お、お怪我はありませんか?」 「大丈夫です。ありがとうございます。」 はっきり言って、僕は紗夏に一目惚れした。夢で見た人より、ずうっと素敵で綺麗で、可愛かったからだ。 そして、僕は紗夏の母親の車に乗った。後ろの席で紗夏と一緒に乗るのは、すごくドキドキして、心臓がバクバクした。 僕は車で学校へ送ってもらうと、真っ先に僕の教室を確認した。 __やった。僕は紗夏と同じだ! 僕なりの青春が、幕を開けた。 翌日、学校へ登校すると真っ先に紗夏が挨拶をしてくれた。 「こんにちは。」 普通、「おはよう。」だろうけど、僕は気にせず、最新のゲームの話題とかを持ってきた。 「こんにちは。」 その声が、僕にとっては癒しだった。 ある日、僕はもうたまらなくなった。 「僕は、紗夏さんが好きです!付き合ってください!」 「……は?」 告白すると、紗夏はこれまでと全然違う低い声で言った。どこかの不良みたいだ。 「無理だわ。お前とは。」 突然、白い霧が立ち込めた。 「お前は人間として最低な男。そんなお前とは、付き合えないよ。今まで我慢してきたけどさ。」 だんだん、紗夏の姿が見えなくなってゆく。 「ううっ……。なんでだよ!?」 「なんでか、考えてみろ。人間として、私が『こんにちは。』と言った後に、何か言うことがあるんじゃないのかよ?」 その言葉を残して、紗夏の姿は消えた。 確かに、僕は紗夏が「こんにちは。」と言っても、「こんにちはー!」と言わなかった。 まさか、それに怒っていた? でも、もう遅い。 僕と紗夏は、結ばれない運命だったのだから。