いままでありがとう、"またね"
杏ちゃんの家に来てから、わずか2年。 時の流れは、一瞬だった。 そして、僕は_。 「…あれ、、、ここは?」 僕はぱっちりと目を開けた。体を起こし、あたりをキョロキョロと見回す。 見た事のない場所だった。 辺り一面の、野原。木の葉が、さわさわと風に揺れている。 「お目覚めですか」 しわがれた声がして、僕はびくっと振り向いた。そこに行儀よく座っていたのは、1匹の年老いた雄の三毛猫。 「ここは…どこ? 僕は……だれ?」 僕はその三毛猫に駆け寄った。三毛猫は動かず、ヒゲを震わせる。 「ここは、光の野原。前世でつとめを果たした猫が、幸せになるための場所です」 「前世で…つとめを果たす?」 「はい。つまり、あなた様はお亡くなりになられたのです」 何も思い出せない。僕が、誰なのか。どのような人生を歩んで、どのように死んだのか。 それに気がついたのか、三毛猫が言った。 「思い出せなくてよいのです。全ての猫が、幸せな亡くなり方をしたわけではないのですから。思い出せば、苦しいだけです」 「これから、僕はどうなるの?」 「ここは立ち寄り所。満足したら天界へと進みます。そして、神様のもとで、老いることなく永遠に楽しく暮らすのです」 僕はもう一度辺りを見回した。たしかに、他の猫の姿はない。 「天界に行きますか?」 三毛猫はそう、静かに聞いてきた。 だが、なにかが僕をここに引き止めている。思い出さなくてはならない気がする。 僕が…誰なのか。 僕の決意を感じ取ったらしく、三毛猫は少し顔を険しくした。 「私は、咎めることはしません。ですが、忠告はしておきます。前世の記憶を思い出せば一生苦しみ続ける方もいらっしゃいます」 「それでも…いい。教えてください。本当のの僕は…誰なのか」 三毛猫は、静かにうつむいた。その瞬間。 すべて…思い出した。 名前はスカイ。杏ちゃんの家に来てから、まだ2年の黒猫。そして…今日…トラックにはねられて、死んだ。死ぬ間際の、杏ちゃんの悲痛な叫び声を思い出して心が痛む。 「ぼく…。…杏ちゃんに会わなきゃ!」 僕は三毛猫にすがりよった。 「僕を現世に戻して!約束したんだ。必ずまた会いに行くって…」 「…あなたさまはお亡くなりになられた。たとえ現世に戻ったとしても、人間に姿はみえないのです」 「そん…な」 「ですが…ひとつだけ方法があります。極力すすめませんが…聞きますか?」 杏ちゃんにもう一度会えるなら…僕はなんだってする覚悟ができていた。 「教えてください」 三毛猫は目をしばたたかせた。 「わたくしはただの猫ではありません。天からの使者です。わたくしの魔法なら、姿がみえるようにできます」 「なら…っ」 「しかし。その後、あなたさまは消えてしまいます」 僕は動きをとめた。三毛猫は続ける。 「わたくしのこの力は天から授かったもの。そしてこの強力な魔法を使うには、犠牲伴います。この魔法であなたさまの姿をあらわにし、杏さまと最後の別れをかわしたあと、あなたさまは天界に行くことなく消えます。消える間際、人間の言葉でメッセージを残すことが出来ますが。どうしますか?」 「…やります。やらせてください!!」 正直、消えるのは怖かった。だけど、それ以上に杏ちゃんに会いたかった。 「…かしこまりました。では、目をつぶってくださいませ」 僕は静かに目をとじた。 「もういいですよ」 言われて目を開けると、そこには見慣れた景色が拡がっていた。大好きな景色、大好きな匂い。だけど、それどころじゃない。 「いいですか。わたくしの魔法をもってしても、10分です。10分たてば、あなたさまの姿は消えてしまいます。お忘れなく」 僕は走った。大好きな家をめざして。 「…杏ちゃん!」 杏ちゃんの部屋は庭のすぐ横。幸い窓は開いたままだった。部屋に入ると、杏ちゃんが布団を被って泣いていた。 「…スカイ?」 杏ちゃんは泣き腫らした顔をあげた。そして僕の姿をみるなり、駆け寄ってきて大声を上げて泣き出す。 「 苦しくない?痛くない?大丈夫? スカイ!…大好きだよっ!」 「にゃあ!」 僕も、好き。でも、もう時間がないや。 僕は無理やり杏ちゃんから離れると、とびきりの笑顔を作った。 僕は、消えた。杏ちゃんは涙をこする。 部屋には一通の手紙が落ちていた。 『杏ちゃん、大好き!!短い時間だったけど幸せだったよ! 僕は元気だよ。大丈夫。だから、僕のこと、忘れないで。いままでありがとう。"またね"』
みんなの答え
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感動っ!
すごく感動しました!特に最後の「“またね”」を見た時にはもうじーんときました!
すごい!
めちゃくちゃ面白かったです!また読みたいです!☺️
感動…
タイトル通り感動した!猫好きにはたまらないー