メトロノーム~ショートショートみたいな感じです~
いつからだろうか。 俺は、この町に、人々に、この国に、違和感を感じる。 感じ続けている。 前は違った、なんて、根拠もなく、思う。 光がぼやっと射しこんできて、俺は目を擦った。 朝か。 6時21分。俺の他の家族は、もうとっくに起きて、出かけてしまったようだ。いつものことなので、俺は、身支度をしたあと、リビングへ向かう。テーブルには、朝食がおかれてあった。 少し冷めた食パンをかじりながら、俺は、やっぱり思う。 おかしい。 今日もそう思ってしまう自分に嫌気がさした。 どんよりした空だ、なんて思いながら、俺は中学校へ向かう。 この国の人々は本当に…全てが「同じ」だ。 服装。思想。歩き方や、感情、起床時間まで、全て。 いつのまにか、教室の前まで来ていた。俺はすうっと息を吸い込むと、今日も、教室の扉を開けた。 「おはよう」 「おはよう」 一斉に、俺以外の同じような顔が同じような声で挨拶を返した。 その目は、何を思っているのだろう。いつもの問題児だ、とでも思っているのだろうか。いや、何も思っていないのかもしれない。 しばらくして、担任がやってきて、昨日と代わり映えのないような授業が始まった。 みんな、同じ意見。間違えることなど、ない。俺以外は。 「じゃあ、3番さん。問3は、答えは何ですか?」 俺は、ガタッと音をさせてイスから立ち上がり、重い口を開いた。 「えと…34.2に、なりました」 俺以外の同じような目は、一斉に俺を見た。 理解できない。といった目で。 「残念。36.2ですね。座っていいですよ」 俺は座った。間違えたことが恥ずかしいとか、そういうことじゃない。 何で、俺だけ…? この国はみんな同じ。それは全てに通じて。違うことは決してない。 俺以外は……… いつからだろう。ある日から、徹底的に、全て、ぐにゃりと変わってしまったんだ…… もう、俺も、流されるだけ。できるだけ、みんなと同化できるように、今日も静かに日常を送る。そうなれるように、努力しているけど……… チャイムがなった。終わりの号令をしたあと、俺は水のみ場へ行った。 バシャバシャと顔を洗って、鏡を見た。 俺だけ顔も違うよな…「不良品」という言葉が頭に浮かんで、俺は、うつむいた。 その時、少し涙で霞んだ視界に、蛇口の横から垂れる、水をとらえた。 へえ、水漏れなんて、珍しい。初めて見た。 ぽた、ぽた、ぽた…と、テンポを刻むように落ちていた。 メトロノームのようだ。 もしかしたら、俺が気づかなかっただけで、ずっと前から垂れていたのかもな。 俺は教室に一回戻ると、ガムテープを少しちぎって、また水のみ場へやって来た。 こんなとこ誰かに見られたら、またあんな目で見られるんだろうな… なんて、思いながら、俺は、水が漏れているところにそのガムテープを巻き付けた。うまく、水は止まった。 俺はいつの間にか微笑んでいた。 そのとき、世界はぐにゃりと歪んだ。 その感覚には、昔にも、感じたことがあった。そう確信した。 気を失っていたようだ。 目を開けるとそこには、 かつての友がいて…… 「大丈夫?どうしたの?」 と、優しい目で言った。 あの冷たい目ではなく、少し光った、 全てが同じになってしまう前の、 昔のあの目で………