『愛』を疎む男
ある所に『愛』を疎む男が居た。 疎む...とは、きらう。嫌だと思って遠ざける時などに使う1漢字1平仮名の単語である。 つまり彼は『愛』を嫌っていた。 26年前彼は貧民街と呼ばれる場所に住む男女の間に生まれた小さな男児であった。 彼は小さな頃から愛されるという事を知らなかった。 彼は良い栄養が取りにくい貧民街の住民から生まれた子供にしては、珍しく病気も少なく元気な子供だった。 普通だったら元気な子供が生まれた事は喜ぶべき事なのだが、神はそれを許してはくれなかった。 何故同じ環境に生まれ同じ環境で育ったのに、この男児の方が元気なのか。 ただそれだけの、だが伸びしろがたっぷり有る、醜らしい嫉妬の感情が貧民街の人間の心を突き動かした。 その感情は次第に大きく広くなって行き、家族からも友人からも見捨てられ、愛の代わりに孤独を与えられ、彼の日々は最悪な物に変わっていった。 そして...。 ※ ※ ※ ※ ある公園のベンチにスーツ姿の一人の男が座っていた。 彼は虚ろげな目で青い空を見上げていた。 ...彼は愛される事を嫌っていた。 生まれたモノはいつか必ず枯渇し砕け散る。 そしてそれを急かされ、無理矢理にも終わらせられる事がどれだけ苦しく辛い事か、彼は最早身を持って知っているからだ。 彼は愛する事を知らない。 誰しもが愛を求めているというのに、彼はそれを拒絶する。 自分も愛を求めていた時期があったのに、それを無視され逆に孤独という生きる中で一番辛い仕打ちを受け、愛された経験が無い事を彼の冷たくなった心が自覚しているからだ。 どうやって愛したら良いのか、彼はそれを知らない。 彼は他の人の痛みや苦しみを、気持ちを理解するが故にそれにさらに鞭を打つ事を快感を覚える。 彼は痛みや苦しみをよく知っている。だからこそ自分だけその境遇に置かれるのか疑問を持つ。 何故私だけこんなにも悩まなければならない、痛がらなければならない、泣かなければならないのか。 私も皆と同じ人間である事に違いは無いのに、何故何故何故何故何故何故っ...‼ 理不尽な無理解と、他の人も同じ目に合わせてやろうという憎しみを......。 彼は誰も信じる事が出来ないし信じる術も持たない。 信じられた事が無く愛された事が無く、それ故に信じる術も愛する技術も持たない。 今、彼は仕事探し中だがこの性格故に良い職場が見つからなかった。 ...もうこの世界の何処にも自分の味方など居ない事を、彼は改めて思い知らされた。 そしてふと今後の事を考える。 どうせ誰にも味方が居ないのなら、わざと敵を作り、それによって味方を集めれば良いのでは無いか。 悪い事をすれば大きなリスクを背負う事になるが仲間と呼べる人、生物、概念を持てば、新世界を切り開ける。 どうせならば大きな事の方が良いだろう。 例えば、そう... 「人殺し」 ...とか。 愛は時に人を狂気に走らせる事がある事を忘れてはならない。 ※ ※ ※ ※ この男は自身の親、友人、通りすがりの一般人などを十分に痛めつけた上で殺害していった連続殺人罪で事件を犯した数ヶ月後に逮捕、死刑の判決が下された。 彼は貧民街に生まれ愛を知らないまま育ち、サイコパスな考え方に脳を支配されてしまっておりました。 実際に想像を絶する苦しみを体験しているからこそ、他人にも自分と同じだけの苦しみを与えてしまおうと考える。 それはとても恐ろしい事です。 もう一度言います。 ......愛は時に人を狂気に走らせる事がある事を忘れてはならない。 (この物語はフィクションです。実際の人物、団体とは関係ありません。)
みんなの答え
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改めて考えさせられました。
フィクションだけれど、もしかしたら、こんな人もいるかも知れない。自分もこうなるかもしれない。そう改めて考えさせられました。ありがとうございます。
あら怖い・・・
怖いねぇ。でもすごくこう、すとんと落ちていく話だったよ。愛を知らないと辛いかもね。 読みごたえが素晴らしかったよ。 素敵なお話見せてくれて、ありがとう。