マリオネット、一日だけ糸を切る【短編小説】
もうマリオネットでいるのはうんざりだった。 教師やクラスメイトに命令をされて、操られる。校舎は牢獄だ。何も悪いことはしていないのに、何年も何年も閉じ込められている。 今まで、高校受験のために頑張って学校に通っていたけれど、もう我慢できない。 今日、学校に行くふりをして、ついにサボってしまった。 公立の中学校に通っているけれど、今日だけはお金をたくさん持って、駅に向かう。 ガタゴト、と響く音を聞きながら電車に揺られて、ふと冷静な心が戻った。 家に帰ったらどうなるの? 明日からは学校に行かないといけないのに、今日サボって意味はあった? でも、今さら後には引けない。結局、終着駅まで乗ってしまった。 その町は、海があった。 ザザーと波が寄っては引いていく。そういえば、どうして波はこうやって動くんだろう。 いつもと違う経験をすると、普段見逃していた疑問を拾える。だから、初めて行く所は好きだ。 海を眺めていると、 「誰だ? 知らないやつだな」 振り返ると、口調に反して整った顔立ちの女の子がいた。同い年くらい、黒髪ショートヘアで、男の子が着そうな動きやすい服装をしていた。 「なんで制服? 見たことないやつだし」 「あの、あなたは?」 「華夜。華やかな夜で『かや』だ」 「私は美沙です。あなた、何歳?」 「十四歳、中学二年生」 「私と同じだよ」 ふうん、と返事をした華夜。仕草も男の子っぽいけど、声は女の子の声。 「んで、美沙はなんでここにいるんだ? 学校あったんだろ?」 普通なら、初対面の人に悩みなんて言わない。でも、華夜にはなんだか言いたくなった。 「マリオネットでいることが辛くなったの」 海辺を歩きながら、私はぽつりぽつりと言葉を発した。華夜は後ろをついてきて、黙って聞いてくれた。 学校に友達がいないこと。 どうして授業があるのか分からないこと。 このままずっと、苦しい思いは続くなら、生きている意味はあるのかってこと。 全て話して、少しだけ心が軽くなっていることに気づいた。誰かに聞いてもらえるだけで、こんなに楽になれるんだ。 「うーん、私は友達もいるし、美沙の気持ち全部分かるとは言えないけど、自分らしく生きるのが一番いいんじゃない?」 ぶっきらぼうに言われたけど、自然と嫌な気はしなかった。 「でも、自分らしくって、何?」 「それもこれから探せばいいんだ。それを生きる意味にすれば。居場所を見つけて、そこでたくさん笑えば、嫌なことも少しは小さく感じるだろ?」 同い年とは思えないくらい、すごく説得力があった。この子は自分らしく生きているんだな。男の子の服装をしているのは、それが関係しているのかな。 華夜といれば、「自分らしく」が何なのか、分かる気がした。 「なら、あなたと友達になりたい。華夜といれば、自分らしく生きれると思う。居場所になると、思う」 華夜は一瞬、驚いた顔をした。けれど、すぐに「いいよ」と言った。 「美沙って、家遠いだろ? 時々こっちに来て、何でも話したり、遊んだりしよう」 嬉しかった。初めて話した人なのに、私と友達になってくれた。 「じゃあ、次の日曜日の十時、ここに来いよ。いつでも連絡できるようにとか、色々しよう。あと、そのうち泊まりにも来い。休日だけの友達な」 「なんか、いいね」 そう言って、微笑み合った。華夜の笑顔は綺麗だった。 ガタゴト......。 電車の音も、行きとは違って聞こえる。家に帰ったら、親に怒られるかな。明日は先生にも怒られる、絶対。 でも、華夜の笑顔を思い出すと、週末が楽しみに思えてきた。気持ちが楽になってきた。 きっと大丈夫、何とかなるって。 【マリオネット】 人形劇で使われる操り人形の一つ。特に糸を操るものを指す。
みんなの答え
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凄いです!
こんにちは( *・ω・)ノ 普通辛かった時華夜みたいな事言われたらムカつくと思うんです。けど文中にもあるように「ぶっきらぼうに言われたけど嫌な気がしない」これは凄くわかります。華夜が、女の子なのに男の子っぽい感じで接してるじゃないですか。それ自体が自分らしく、誰の目も気にせず生きていることが美沙にはとても心に突き刺さったんだと思います。 いつか美沙が華夜みたいに自分らしく生きられる日が来ると良いですね!素晴らしい小説ありがとうございました(・ω・)それでは( ´∀`)/~~