須川くんのせいで。
「俺、お前のこと好きだわ。」 小さい頃から、「お友達作り」が苦手だった。 誰かに合わせて笑ったり、歩いたり、話したり。 友達は欲しかったけど、そんな私を周りは“変な人”と呼んで、関わろうとしなかった。 こんな私に、今突然言い放たれた言葉。 雨の日、二人きりの教室。 雨も二人きりも酷く苦手で憂鬱なはずなのに、心臓の鼓動は加速していく。 須川良平くん。 同じクラスのちょっと変わってる人。 いつも皆から少し離れたところにいて、学校も気まぐれに来る。全然関わったこともない。のに… 「えっ…と、それを誰に伝えれば良いですか?」 珍しく私は混乱していて、思わずそんなことを口走った。 須川くんは大きな瞳を見開いて、それから少し笑った。 「ははっ、誰にも伝えなくていーわ。お前…詩葉に言ってんだから。」 あ、名前… クラスの人に初めて呼ばれたかも。 須川くんをやたら眩しく感じるのは、耳元で光るピアスのせいか、それとも… 私はその日から、須川くんを目で追うようになった。 教室の隅で窓の外を眺める姿、授業中、ちょっと眠そうな姿。 彼を見ると心臓がギュっと、握られたみたいに苦しくなる。 でも須川くんとはそれきり、特別何か話す訳でもなく、あの返事を出すわけでもなく。 時間だけが緩やかに過ぎていった。 そんなある日、 須川くんはとうとう学校に来なくなった。 多分いつもの気まぐれだろう。そう思いたかった。 今回のは凄く長い気まぐれで、きっと数日後には… 「えー、須川の話だが、あいつは家庭の事情で…」 頭を強く殴られたような感覚だった。 視界が揺らいで、顔が熱い。 ねぇ須川くん。 私、また須川くんと話したかったのに。 勝手に振り回して、勝手にいなくならないでよ。 須川くんのせいで、私… 放課後、一人きりの教室で何気なく窓を開ける。 そういえば、須川くんと初めて話したのも、こんな雨の日だったな。 外から吹いてきた冷たい風が、私の頬を乾かす。 ひらっ 「えっ…」 須川くんの机から、何か白い紙が落ちた。 “詩葉へ” 震える手でそれを拾い上げ、中身を取り出す。 “お前最近、俺のこと見すぎだし笑 あーやっぱ俺、お前のこと好きだわ。理由なんか教えてやんねーからな。” 「…っ、ふ…」 須川くんは本当に、最後まで自由な人だ。 酷いよ。勝手に好きにさせたくせに。 返事も出させてくれないなんて… 須川くんなんか、須川くんなんか… 「大っ嫌い…」 涙で滲んだ手紙は、私の心の奥に、奥底に沈んでいった。